島原の乱が鎮圧されて間もない江戸時代初期に行われたキリシタン弾圧の史実に基づいて書き下ろされた歴史小説(1966年、新潮社)。第2回谷崎潤一郎賞受賞作品
(遠藤周作 著、新潮文庫、1981年刊)
12歳の時にカトリックの洗礼を受けた遠藤周作(1923〜96)は、作家人生を通じて「日本人でありながらキリスト教徒であることの矛盾」を突き詰めた。戦時中には敵性信仰だと差別を受けながらもキリスト教徒であり続けた強い信仰心の傍ら、自身の作品中ではキリストを無条件に賛美しない。その「矛盾」は奇妙に映るが、彼は泥臭くその矛盾と対峙し続けた。
私が医師になった1999年は、横浜市大病院患者取り違え事件、都立広尾病院事件などが起きた年であった。当時24歳の研修医であった私は、ほとんど家に帰ることなく「患者のため」と診療を行っていた。しかし、メディアによる苛烈な医師に対するバッシングが始まり、病院内の空気は一変した。「出るとこ出てもいいんだぞ」「訴えてやる」。そんな言葉が飛び交うようになり、また、大学時代の友人2人が別々の事案で警察の取り調べを受け、大学を去った。
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