日本における異状死体の検案は,死体解剖保存法第8条に基づき,監察医制度が施行されている地域では監察医が実施し,必要に応じて解剖を行っている。一方,それ以外の地域では主として警察嘱託医が検案を行っているが,監察医制度施行区域に比べ,総じて剖検率は低い現状にある。
監察医制度施行区域と非施行区域との死因構造の相違については,これまでに複数の報告がある。1986年の兵庫県での調査(文献1)によると,非施行区域では施行区域に比べ,(1)原死因の明確でない「急性心臓死」が多いこと,(2)循環器以外の疾患の割合が極端に低いこと,など病死の内容に大きな差異が認められた。また,2010年の東京都での調査(文献2)によると,非施行区域において,(1)剖検せずに診断された「詳細不明の心臓死」は依然として多く存在すること,(2)外因死では中毒死,熱中症の割合が低い傾向にあること,が認められた。両調査において,非施行区域の死体検案書の記載に不備が多く認められた(文献1,2)。
剖検率の相違,死体検案書の適切な記載といった要因が,監察医制度施行区域内外の死因構造の相違に関与している。現在,監察医制度は一部の大都市にしか存在しないが,内因性急死・外因死の予防対策には正確な死因統計を得ることが重要であり,死因究明制度の全国的な改善および法医学の卒前・卒後教育の充実が望まれる。
1) 福永龍繁, 他:厚生の指標. 1988;35(11):20-5.
2) Suzuki H, et al:Leg Med (Tokyo). 2011;13(6):273-9.