法医鑑定の薬毒物スクリーニング検査は,死者が生前に特定の薬毒物に曝露されているかどうかを判定するために行う。方法は多岐にわたり,シアンや農薬などを検出する簡易な呈色反応,イムノアッセイによる乱用薬物スクリーニングキット(トライエージ DOA,インスタントビュー M-1)や,ガスクロマトグラフィー(GC)や液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析(MS)を組み合わせたGC/MSやLC/MSによる機器分析も行われる。
ガス体や揮発性物質の分析はGC/MSが優れ,微量の催眠鎮静薬や天然毒などにはLC/MSがより適している。最近ではさらに選択性と感度を向上させたLC/MS/MSによる薬毒物スクリーニング(文献1)が広く利用されるようになってきた。また飛行時間(TOF)型MSの性能が向上し,質量数小数点以下4桁まで測定可能になったことで,元素組成の決定と分子構造の推定が可能となった(文献2)。LCと組み合わせたLC-TOF/MSはその高い同定能力により,短期間で次々と構造を変化させて乱用薬物市場へ登場する危険ドラッグ類の同定手段として,その有用性が期待されている。一方,薬毒物の確認と同時に濃度推定が可能な新しいスクリーニング法も開発(文献3)されており,時間のかかる定量検査の結果を待たずに,薬毒物関与の程度が判断可能となってきた。さらに,より簡単な前処理法の検討もされていて,今後の研究の発展が期待される。
1) Usui K, et al:Leg Med (Tokyo). 2012;14(6):286-96.
2) 鈴木 修, 他, 監:薬毒物情報インデックス. 日本医事新報社, 2014.
3) Kudo K, et al:Forensic Toxicol. 2014;32:97-104.