【Q】
膵臓癌による死亡者は増加し,年間で約3万人に達しています。特に,局所進行膵癌における放射線治療を中心とした最近の治療法の進歩はどのような状況でしょうか。高知医療センター・西岡明人先生のご教示をお願いします。
【質問者】
小川恭弘:兵庫県立加古川医療センター院長
【A】
少し古いデータではありますが,2002年の全世界的な癌統計では,膵癌は13番目の発生頻度にもかかわらず,死亡数は8番目に多い癌となっており,膵癌,特に進行膵癌の予後は決して良くありません。その後の治療法の進歩に伴い治療成績も徐々に向上してはいますが,膵癌全体の予後は5年生存率で5%以下であり,手術不能の局所進行膵癌の中間生存期間は8~10カ月と言われています。
一般的に,膵癌は早期に遠隔転移をきたすことが多く,特に腹膜播種と肝転移が問題となってきます。したがって,局所進行膵癌の治療においては局所治療と全身療法のバランスが重要になってきますが,そのうちの局所治療における放射線療法の寄与はきわめて重要と考えます。しかし,膵癌は多くの場合放射線感受性が低く,また周辺に消化管などの重要臓器が存在するため,通常の放射線治療法では必要な線量を十分に投与することが容易ではありません。その改善策として,体幹部定位放射線治療(stereotactic body radiation therapy:SBRT)や強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy:IMRT)などの高精度放射線治療や粒子線治療の導入が近年試みられていますが,まだまだ研究レベルの段階です。
このような状況において,兵庫県立加古川医療センター院長(高知大学名誉教授)の小川恭弘先生らは,過酸化水素が,抗酸化酵素を標的としてその作用を阻害すると同時に局所に酸素を供給することにより強い放射線増感作用を発揮することを発見し,局所進行手術不能膵癌に対しても,この過酸化水素を増感剤として術中照射(intraoperative radiation therapy:IORT)に併用した術中増感放射線療法(KORTUC-IORT)を試みています。現時点ではKORTUC-IORTによると思われる明らかな有害事象は認められておらず,また1年生存率,2年生存率はそれぞれ75%,25%で,中間生存期間は16カ月という結果が出ています。
ちなみに日本における手術不能膵癌に対する術中照射を併用した多施設の治療成績を解析した結果では,2年生存率14.7%,中間生存期間10.5カ月との報告があり,KORTUC-IORTの治療成績向上に対する有用性が示唆されています。今後は,症例数を増やすとともに過酸化水素の投与方法の改良を図り,KORTUC-IORTの安全性と有用性をさらに確認することが重要と考えます。
また,化学療法に関しては,従来からのフッ化ピリミジン系抗癌剤に代わってゲムシタビン塩酸塩やS-1が頻用されるようになり,それに伴って治療成績も向上しています。したがって,それら化学療法との比較検討も重要と思われます。