2015年までの目標であった「ミレニアム開発目標」を引き継ぎ,30年までの達成をめざす「持続可能な開発目標」が15年,国連で採択された(文献1)。新旧の目標はともに,貧困,飢餓,健康問題,不平等などの解決を世界規模でめざしたものである。
「ミレニアム開発目標」での健康問題として具体的に挙げられていたのは,乳幼児死亡率と妊産婦死亡,低栄養,感染症(HIV/AIDS,マラリア,結核)であった。これらは開発途上国の重要な健康問題ではあるが,慢性疾患と外傷はそれ以上に大きな問題であるにもかかわらず,顧みられることがなかった。
しかし,「持続可能な開発目標」では,慢性疾患とともに交通外傷が具体的な問題として取り上げられ,「2020年までに交通外傷半減」をめざすこととなった。交通外傷は工業化と経済発展の進んだ国の問題であるととらえられがちであるが,先進国がかつて経験したような「交通事故問題」とは様相が異なる。途上国では,経済規模やインフラ整備と釣り合わない規模で,安い輸入車が大量に流入し,交通外傷が激増しているのである(文献2)。そのため,法整備や信号・歩道といった安全施設の整備などの交通安全対策とともに,救急医療システムの構築が喫緊の課題である。
1) United Nations:Sustainable development goals. 2015.
2) World Health Organization:Global Status Report on Road Safety 2015. 2015.