【Q】
慢性肝障害患者において,HBs抗体が陰性でもHBc抗体が陽性であることを散見します。AFP(α-フェトプロテイン),PIVKA-Ⅱ,腹部超音波は何カ月ごとに検査すべきですか。また,発癌率はどの程度でしょうか。HBc抗体価やHBs抗体の有無によっても対応は異なるのでしょうか。(青森県 O)
【A】
HBc抗体が陽性の場合は,B型既往感染例と診断されます。HBs抗体も陽性となる症例が多いのですが,HBc抗体が単独陽性の場合もあります。また,HBVワクチン未接種にもかかわらず,HBs抗体のみが陽性でHBc抗体が陰性の既往感染例も存在します。筆者らが実施したHBV再活性化に関する前向き研究1)では,B型既往感染例のうち,72%がHBc抗体,HBs抗体がともに陽性例,19%がHBc単独陽性例,7%がHBs単独陽性例,2%はHBs抗体が未測定でした。わが国では,B型既往感染例の発生率は50歳以上の年齢層で約25%であり,総数は1000万人以上であると推計されます。
B型既往感染例は,感染経路で2種類に分類され,管理の仕方が異なります。大部分は成人期の水平感染例で,肝炎は一過性で治癒しており,HBc抗体は低力価陽性です。この場合はHBs抗体も陽性になりますが,感染後は抗体価が漸減し,高齢者では陰性となる場合もあります。一方,少数例ですが注意を要するのは,幼少期の垂直ないし水平感染によるB型キャリアです(表1)。免疫監視期の非活動性キャリアは,高齢になるとHBs抗原が陰性化して,既往感染例と同様の肝炎ウイルスマーカーを呈するようになります。この時期は寛解期と呼びますが,HBc抗体は高力価で,HBs抗体は陰性の場合が多いのが特徴です。一過性感染例と寛解期のキャリアのいずれかは,HBc抗体価で推定しますが,最も頻用されているCLIA法では10~11 S/COを境界にするのが一般的です。
一過性感染による既往感染例は,基本的に肝癌のスクリーニング検査は行いません。ただし,重症肝炎が治癒した場合には,壊死後性肝硬変になっている症例もあり,その際は6カ月ごとにAFPとPIVKA-Ⅱを測定,6~12カ月ごとに腹部超音波検査を実施します。一方,寛解期のキャリアの場合には,HBe抗体陽性の非活動性キャリアと同様の管理が必要になります。6~12カ月ごとに腫瘍マーカーを測定し,1年に1回は腹部超音波検査を実施することが推奨されます。
以上のような管理法の違いは,肝発癌リスクの差異に基づくものです。しかし,B型既往感染の日本人で,肝発癌リスクを前向きに評価したエビデンスレベルの高い検討はありません。HBV感染者における肝発癌リスクはHBV-DNA量とHBs抗原量によって規定されますので,両者陰性の既往感染例は,リスクがきわめて低いとみなされます。特に,一過性感染の既往感染例は,未感染例と同程度のリスクとみなしてよいでしょう。しかし,寛解期のキャリアではHBV-DNAが検出される場合もあり,肝発癌リスクは未感染者よりも高いと考える必要があります。このため,肝炎ウイルスマーカーに関しては,「HBs抗体が陰性でHBc抗体が高力価」の症例で特に注意が必要となります。
1)Mochida S, et al:J Gastroenterol. 2016. Feb 1 [Epub ahead of print]