かつて、4種類ある抗認知症薬には増量規定なるものが定められていた。共同通信社の調査によると、アリセプトを規定通りに増量しないと保険審査で査定される都道府県が9県もあった。しかし、規定通りに増量していくと、易怒性や歩行障害や徐脈などの副作用が表れる人が必ずいる。抗認知症薬に対するアルツハイマー型認知症の人の感受性はまさに百人百様であるが、個別性を考慮した処方は保険診療では認められていなかった。
そこで、抗認知症薬の医師の裁量による適量処方を求めて現場の医療・介護者が集まり、2015年11月23日、「一般社団法人 抗認知症薬の適量処方を実現する会」が設立された。ホームページ上で増量規定による副作用事例を全国に呼び掛けたところ沢山の事例が集まり、そのまま公表された。この問題は、衆議院の予算委員会においても議論された。
会の設立からわずか半年後の2016年6月1日、厚生労働省から「個別性を重視した投与を認める」旨の事務連絡が出され、事実上少量処方が容認された。信濃毎日新聞をはじめ1面などで大きく報じる地方紙が相次ぐ一方、大手紙はスポンサーに配慮してかほとんど報じなかった。その結果、残念ながら臨床現場への周知度は低く、相変わらず増量規定に従った処方が続いているのが現状だ。私の外来にも、明らかに最高量の抗認知症薬による副作用が前面に出た人が相談に来られる日々が続いている。抗認知症薬を中止するだけで困った症状が速やかに改善するため、家族から神様のように感謝されるのだが、そもそもおかしな話である。今後、抗認知症薬の副作用や適量の探し方などに関して、製薬会社主導ではなく現場の医師主導による啓発が急がれる。
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