膵癌には有用性が確立した検診方法がない
膵癌は罹患率が低く,高危険群者のプレスクリーニングが必要である
アポリポ蛋白A-Ⅱのヘテロダイマーは膵癌患者と高危険群者で有意に低下する
膵癌が難治性である理由のひとつとして,早期発見が困難であることが挙げられる。早期の膵癌患者の多くは他臓器のがんと同様に臨床症状が乏しく,医療機関を受診する機会すら持たない。そのため膵癌の予後を改善させるためには,無症候者をスクリーニングし,膵癌罹患者を早期に発見し,治療を開始することが重要であろう。膵癌検診が可能となれば,その遠隔成績は飛躍的に向上することが期待される。しかし,現時点では膵癌に対して科学的に有効性が証明された検診方法はない。
膵癌は発見時に既に周囲に高度に浸潤し,さらにリンパ節や肝などの遠隔臓器に転移していることが多く,外科切除の対象にならないことが多い。日本膵臓学会の全国膵癌登録20年間の集計によると,膵癌症例の約95%が発見時,既にStage ⅢないしⅣ期の進行した状態であったと報告されている。
しかし,膵癌細胞は本当に早期より浸潤転移をきたしやすいのであろうか。膵臓には明瞭な被膜がなく,また膵癌は神経浸潤のような特殊な進展形式を持つため,周囲に浸潤しやすいことは理解できる。一方,最近のゲノム解析の結果では膵癌が発生後,転移するまで15年かかるとの報告もある1)。これが正しければ,転移する前の早い段階で膵癌を発見する機会(期間)は十分あると思われる。
超音波検査,CT(computed tomography)やMRI(magnetic resonance imaging)等の画像診断技術が確立・普及しており,膵癌の疑いがあれば,無症候者に対してもこれらを実施しているのがわが国の医療の現状であろう。しかし,検診としてこれらの画像診断を実施するのは,膵癌の罹患率を考えるとあまりにも効率が悪い。効率がよく,非侵襲的で経済的な何らかの方法を用いて,膵癌罹患者や膵癌発症危険疾患患者を捕捉することができさえすれば,わが国の進んだ画像診断技術で膵癌を早期発見することが十分可能であると思われる。これら画像診断については本特集の他稿で詳しく述べられているので,参照して頂きたい。
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