坪井栄孝先生は4期8年にわたり、日本医師会会長として国民医療を守る最前線で、その指導的役割を果たされた。その時期、私は日本医師連盟の推薦を受け、全国比例区選出の参議院議員として国政に参画していた。そこで私は、極めて強力な坪井会長の指導力の下、多くの政策提言が日本医師会より提示され、実現される過程を経験することができた。そこで認識したことは、坪井会長の指導力には常に一貫した基本姿勢があるということであった。
それは第一に、日本医師会を常に政府および政党に対し、一定の距離を置いた独立した存在とし、国民医療を守る専門家集団として確立するというものであった。この基本姿勢に基づき、坪井会長は日本医師会の政策立案能力を強化する必要を認め、日本医師会総合政策研究機構(日医総研)を創立された。我が国では官僚主導の政策決定が主導的役割を果たす状況下、日本医師会自身が独自のデータを収集し、政策提案能力を確保することによって、政府に対してもしっかりと対峙する基本姿勢を貫かれた。
第二に、我が国の様々な役割を担う病院の機能を独立した第三者の立場から評価し、その質的向上を図るために日本医療機能評価機構を創設された。坪井会長は政府の立場からも医療提供者の立場からも一線を画して、第三者の立場を維持することの重要性を強調されていた。
第三に、医政活動において社会保障制度改革に影響力を持つ重要な政治家との友誼を深めつつ、中堅若手の政治家を育てる役割を果たされていた。定期的に中堅若手との夕食会を持たれていたが、そこの出席者は現在の安倍晋三総理大臣、岸田文雄外務大臣、塩崎恭久厚生労働大臣などである。政治家を見る目においても、卓越したものを持っておられたと思う。
そして日本医師会を担う若手の医師を全国から集め、「未来医師会ビジョン委員会」を創設し、若手医師の育成に努められたことも将来を見据えた坪井会長の指導力のあり方を示すものであったと思う。
私は日本医師会の中興の祖として坪井会長の果たされた役割の大きさを思い、心からの敬意を表したいと思う。最後に、坪井会長から頂いた数々の御厚誼に心より感謝を申し上げて御冥福をお祈りしたいと思う。