日本政府の有識者会議は、首都圏の医療・介護施設の不足に対して、高齢者の地方移住を前提とした日本版CCRC構想(素案)1)を2015年に発表しました。CCRCとはContinuing Care Retirement Communityの略で、「終身介護退職者コミュニティ」と和訳されており、米国が発祥です。コミュニティによって異なりますが、おおむね60歳以上の人が入居し、老後の生活を楽しみながら、健康状態に応じた医療と介護のサービスを受け、そこで生涯を閉じます。
一方、米国にはActive Adult Retirement Communityと呼ばれる元気な老人のための退職者コミュニティもあります。数千~数万人の元気な高齢者が暮らすコミュニティで、ゴルフ場が隣接し、娯楽や生活サービスなどが完備されています2)。1960年にアリゾナ州につくられた「サン・シティー」はその先駆けとして有名です。しかし、元気な高齢者も年をとるにつれ、介護や医療が必要になります。そのため、1970年代から医療と介護を亡くなるまで保証する CCRCがつくられるようになりました。
まずは本場のCCRCを見てこようと、2015年9月にカリフォルニア州のCCRCを視察しました。
CCRCの歴史は古く、19世紀以前に遡ります。家や資産を寄付した高齢者や、退職した宣教師のために、友愛結社や教会が介護を提供したのがCCRCの始まりとされています3)。1915年にカリフォルニア州のクレアモントに設立された「ピルグルム・プレイス」は、海外でキリスト教を宣教してきた宣教師のためにつくられました。
1970年代に入ると高齢者の増加に伴いCCRCは一気に増えます。1990年代からは、娯楽や趣味だけでなく、世代間交流と知的刺激も目的とする大学連携型のCCRCが、大学の敷地内やその近隣に建設されるようになりました。従来CCRCは温暖で自然豊かなところに建設されていましたが、大学連携型CCRCは気候や自然に関係なく、全米各地につくられています4)。2013年時点で全米にCCRC は1900箇所あり、約75万人が暮らしています。大学連携型CCRCは70箇所(2010年)です。
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