2016年9月17日の新聞に、「虐待死の子ども、0歳が6割超 背景に望まない妊娠」という記事が出ました。亡くなった44人の子どもの実母が抱えていた問題を調べると、「望まない妊娠」が最多の54.5%を占めたということです。そして、有識者のコメントとして、「妊娠中の母親支援の必要性」が語られていました。しかし、その「望まない妊娠」に至った背景については語られていなかったように思います。
2010年4月に日本で最初に設立された本格的なレイプクライシスセンターである「SACHICO」には、開設後6年間で、他人からの同意のない、強要された性交によって妊娠した人59人、夫あるいは恋人からの暴力的な性交で妊娠した人69人が相談に来られました。この女性たちがもし、その「望まない性交」後72時間以内に産婦人科医療機関に相談に行き、緊急避妊ピルを処方されていれば、妊娠を避けることができたかもしれません。
性暴力の被害を誰にも相談できずにいた結果、妊娠がわかりやむなく来られたのです。でも週数によっては、人工妊娠中絶術を受けることも可能です。出産ということになっても、SACHICOのような相談機能のあるところに来られた場合は、「育てるか否か」についてもともに考え、母と子が安全に生きていけるよう、社会資源をフルに活用した支援が可能です。
内閣府の調査(2015年3月発表)によると、調査対象の女性のうち、「異性から無理矢理性交されたことがある」と答えた人は、6.5%で、そのうち67.5%は誰にも相談しなかった、と答えています。そして、相談した人のうち医療機関に相談した人は、たった1.7%でした。
性暴力の被害を安心して相談できる場所が少ない、という日本の現状が、望まない妊娠の背景にあり、女性を孤立させ、結果として子どもの安全が奪われていると考えられます。
産婦人科医は「女性の性」の専門家です。訪れる女性の「性が脅かされていないか」という視点での診療により、人間関係、特に性的な関係についての相談の窓口になれる数少ない診療科であることを自覚して頂きたいです。