▶次期2018年度診療報酬改定を巡る議論で大きな論点として浮上しているのが、医療のICT化に向けた、遠隔診療の活用だ。中央社会保険医療協議会では外来医療の課題の1つに位置づけられ、慎重派の診療側と推進派の支払側の間で意見が対立した。3月26日の日本医師会臨時代議員会でも遠隔診療の拡大を懸念する声が上がった。
▶昨年の「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」策定など、政府会議による“天の声”で医療政策の方向性が決まる傾向が強まっている。遠隔診療の活用も同様で、2016年11月には政府の未来投資会議で、安倍晋三首相が「『遠隔診療』を進め、質の高い医療を実現していく」と言及。塩崎恭久厚生労働相はICTを活用した遠隔医療等について、エビデンスを収集し、18年度改定での対応を検討する方針を示している。
▶地域包括ケアシステムにおいてICTを活用し、データ共有などが可能になる連携ネットワークの構築が重要であることは論を俟たない。しかし、臨床現場におけるICTの活用は、患者にとって真に有益かどうかを見定める必要があるだろう。医療費削減や在宅医療推進の観点から安易に進めていい話ではない。
▶臨時代議員会で中川俊男日医副会長が指摘したように、遠隔診療における医療費は、医師の技術料とICTや医療機器のコストで分配される。遠隔診療の普及に伴い技術料のパイが減少する可能性が高いのだ。診療報酬改定を巡る議論が、ほぼ“ゼロサムゲーム”であるという現実を鑑みれば、政府の方針を規定路線とするのではなく、遠隔診療について「さらなる普及」の是非の段階から、中医協の場で検討を進めるべきではないだろうか。