主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の産物であるhuman leukocyte antigen (HLA)は,ほぼすべての有核細胞や赤血球以外の血球に発現している。移植前に妊娠や輸血により感作された患者,また自己免疫性肝疾患の患者では,このHLAに対する抗体を保有している場合があり,臓器移植後に抗HLA抗体による液性拒絶反応が問題となることがある1)。
従来,肝移植はほかの臓器移植と比べて抗HLA抗体を含む抗ドナー特異的抗体(DSA)に対する免疫寛容性があると考えられてきた。しかし,近年,ローサイトメトリー法,ルミネックス法といった高感度の抗HLA抗体検出法が開発され,肝移植においても術前のDSAや移植後に産生されるde novo DSAが,急性期のグラフトロスを発症し,また,慢性拒絶反応や後期のグラフト線維化などにも関与し,移植成績を低下させることが報告されている1)2)。ただ,抗HLA抗体の産生,反応のメカニズムや肝移植後の病態は十分解明されておらず,DSAの存在やその抗体価による対応は十分定まっていないのが実情である。
今後,DSAの反応のメカニズムを解明し,高危険群を抽出し,術前DSA存在時における減感作療法や移植前後の免疫療法の確立,肝移植のドナーの変更や移植中止の基準などについて,至急検討していく必要がある。
【文献】
1) Terasaki PI, et al:Transplantation. 2008;86(3): 377-83.
2) Del Bello A, et al:Hum Immunol. 2016;77(11): 1063-70.
【解説】
田村 圭 愛媛大学肝胆膵・乳腺外科
藤山泰二 愛媛大学肝胆膵・乳腺外科准教授
高田泰次 愛媛大学肝胆膵・乳腺外科教授