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木村荘物語[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(145)]

No.4851 (2017年04月15日発行) P.73

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2017-04-15

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  • 平成2年から5年間、京大医学部の本庶佑先生の研究室でお世話になった。大阪市内の自宅から通勤していたが、夜遅くまで実験することも多かったので、間借りをして、週に2~3回は泊まっていた。

    勝手に木村荘と呼んでいたけれど、アパートではない。個人病院であった建物を、閉院後に貸しておられたのだ。格安の家賃だったが、押入付きの一間で、トイレや炊事場はもちろん共用、風呂はなかった。

    振り込みとかではなく、毎月お家賃を大家さんに届けていた。インターフォンを押して、上品な奥様にお渡しして、ちょっとした世間話をするのが楽しみだった。阪大に移ってからも年賀状のやりとりをしていたのだが、いつしかそれもなくなった。

    仕事柄、京都大学へ出向くことは多い。そのたびに少し回り道をして、インターフォンは押さなかったけれど、建物があることだけは確かめていた。しかし先日、久しぶりに行ったら更地になっていた。

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