すべての鎮静催眠薬,アルコール,BB系睡眠薬,BZAなどは多様な作用を持っており,GABAa受容体複合体に作用する。それらは交差耐性を持つため,多剤併用につながる。非BZDの使用は,断薬達成者のうちの1/4の割合で薬物乱用を再発させることがあった1)。また米国では,BZDに対する医療保険のカバーが地域によっては制限されてきており,非BZDが推奨されてきている。その理由として,睡眠薬の安全性が挙げられる。すなわち,BZDの鎮静作用,奇異反応,薬剤耐性,依存性,退薬症候などの副作用を重視したのである。また短時間型のBZDや“Z─drug”(47ページ参照)は,入眠困難には対応できるが,睡眠維持機構への効果が未だ十分ではないと言われている。
これらの問題点を解決すべく,新たな薬物開発が企画された。睡眠─覚醒調節に関連した役割をもつ脳内ペプチドであるオレキシンに着目した,その受容体拮抗薬である。
オレキシン神経系(orexin neurons)は,脳内の覚醒系(wake-active neurons)であるアミン系およびアセチルコリン系に対して促進的に働き,この覚醒系は睡眠を誘発する視索前野(preoptic area:POA)のGABA系に対して抑制的に働く。睡眠を促すGABA系は,覚醒系とオレキシン神経系に対しては抑制的に働く。オレキシン神経系の活動が高まれば,覚醒系が一斉に駆動されることで持続的な覚醒状態が保持され,逆にオレキシン神経系の活動が低下すると覚醒系の活動が一斉に抑制され,覚醒系によるGABA系の抑制作用も減弱することにより,持続的な睡眠状態が誘導される(図1)2)。
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