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薬剤耐性が医療経済に及ぼす影響【莫大な額の追加的医療費が見込まれているが,各国の試算にはバラツキがある】

No.4854 (2017年05月06日発行) P.58

田辺正樹 (三重大学医学部附属病院 医療安全・感染管理部副部長)

森井大一 (大阪大学大学院医学系研究科)

登録日: 2017-05-04

最終更新日: 2017-04-27

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  • 薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)は,世界的な問題となっています。このまま対策を取らないと,2050年にはがんを超えて最多の死亡原因になるとも言われており,医療経済的にも大きな影響を及ぼすことが指摘されています。AMR対策に関しては,治療法や感染対策の側面だけでなく,医療経済的な視点も重要になってきます。AMRが医療経済に及ぼす影響について,大阪大学・森井大一先生のご教示をお願いします。

    【質問者】

    田辺正樹 三重大学医学部附属病院 医療安全・感染管理部副部長


    【回答】

    AMR問題が社会に及ぼす影響は経済的にも途方もない規模になるようです。2014年末に英国政府の下でジム・オニール(一群の経済新興国を“BRIC”と呼んだことで有名な経済学者)がまとめた報告書1)によると,世界全体でGDPの2~3.5%が失われ,その総計は2050年までに100兆ドル(≒1.2京円)にも達するとのことです。実は,日本政府が2016年春に発表したアクションプランの中では,このオニールレポートの数字は1000兆ドルと誤って紹介されています。おそらくゼロを数え間違えたのでしょう。しかし,1京円も,1恒河沙円も,1那由他円も,とにかく「途方もない額」には違いありません。

    2016年秋に世界銀行が発表した報告書2)でもほぼ同等(40~120兆ドル)の影響があるとしており,GDP成長率の落ち込みはリーマンショックと同規模としています。リーマンショックの打撃は年月を経て緩和されましたが,AMRは年を追うごとに深刻化する危険があり,それを回避するための対策が必要です。現時点でもAMRは大きな問題ですが,AMRの水準を現状程度に維持できるなら対策は成功したと言わざるをえないところが,その影響の「途方もなさ」でもあります。

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