甲状腺分化癌は癌化しても正常甲状腺濾胞細胞の性質を有しており,この性質を利用して術後経過観察と再発・転移巣の治療が行われる
術後経過は血中サイログロブリン(Tg)値の推移と頸部超音波検査をメインに観察していく
再発・転移巣の治療は,甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制療法をベースとして,部位に応じた治療法を選択する
甲状腺癌は乳頭癌,濾胞癌,髄様癌,低分化癌,未分化癌,悪性リンパ腫などの病理組織型に分類され1),それぞれbiologyが大きく異なる。乳頭癌は特徴的な核所見を有するため,細胞診での診断がつけやすく,リンパ節転移や腺内転移を起こしやすいといった特徴を有する。一方,濾胞癌は細胞診での良・悪性の鑑別は困難であり,リンパ節転移や腺内転移は稀であるが,肺や骨などへの遠隔転移が乳頭癌に比べ多い。このように両者の生物学的特徴に異なる点はあるものの,ともに分化度が高く,予後はきわめて良好なことから,甲状腺分化癌としてまとめて論じられる。
また,乳頭癌と濾胞癌は甲状腺濾胞細胞由来であるため,甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)の刺激を受けて増殖する,サイログロブリン(Tg)を産生する,ヨウ素を取り込むといった正常な甲状腺濾胞細胞の性質を癌化しても有している場合が多い。この性質を利用して術後補助療法や経過観察,再発・転移の治療が行われている。
そのほかの組織型として,慢性甲状腺炎(橋本病)に稀に合併する悪性リンパ腫,約3分の1が遺伝性疾患である髄様癌,きわめて予後が不良である未分化癌に関しては,頻度も低く特殊な疾患であるため,専門施設で治療することが望ましいと考えられる。このため,本稿では,甲状腺癌の中でも頻度が高い,甲状腺分化癌の術後補助療法と経過観察,転移・再発治療について解説する。また,甲状腺癌の治療に関する主なガイドラインには,「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版」2)やNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)3),American Thyroid Association(ATA)4),European Thyroid Association(ETA)5)のガイドラインなどがあるので,詳細はこれらを参照されたい。
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