トランプ米大統領は、就任直後の1月23日、TPPから「永久に離脱する」大統領令に署名し、再交渉などの可能性も打ち消しました。大統領は日本との貿易不均衡にも改めて不満を表明し、スパイサー大統領報道官は「アジア太平洋との貿易協定は2国間交渉に軸足を移す」と明言しました。
そこで本稿では、トランプ政権が今後の交渉で日本医療に何を要求してくるかを予測します。その手がかりとして、2011年以降のTPP論争での私の主張を紹介します。次に、米国通商代表部「2017年外国貿易障壁報告書」の「医療機器・医薬品」の記述・要求を分析します。最後に、米国の要求は、安倍政権の医薬品費抑制「基本方針」と対立し、最後は「高度な政治判断」がなされると予測します。
日本では、2010年10月に菅直人首相(当時)がTPP交渉参加の検討を表明して以降、大論争が始まり、私も3冊の著書でそれに参加しました。以下、本稿のテーマの参考になる記述を紹介します。
まず『TPPと医療の産業化』(勁草書房,2012)で、TPPには反対だが、TPPに参加すると国民皆保険制度が崩壊する等の「地獄のシナリオ」に疑問を呈し、この問題を検討する際に「見落としてならないこと」として、次の2つを指摘しました(26-27頁)。①米国は決して一枚岩ではなく、その要求も一貫しておらず、「場当たり的」である。②医療の市場化・営利化は決して米国側だけの要求ではなく、日本の大企業も求めている。
同書では、TPPに参加した場合の米国の日本医療への要求について、3段階の予測を行いました(32-39頁)。第1段階:医療機器・医薬品価格への規制の撤廃・緩和、第2段階:医療特区に限定した市場原理導入、第3段階:ISD条項と市場原理の全面的導入。その上で、「第1段階は実現する可能性が高いし、第2段階の実現可能性も長期的には否定できないが、第3段階の実現可能性はごく低いと判断」しました。第1段階が実現した場合には、新薬の価格上昇と後発薬の発売遅延が生じて患者負担の増加と医療保険財政の悪化が生じ、診療報酬本体の引き下げ圧力がさらに強まると予測しました。
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