高齢者の転倒による骨折の好発部位に,大腿骨頸部,脊椎などがある。大腿骨頸部骨折の発症による1年以内の死亡率は10%前後で,予後に影響する因子には性(男性のほうが不良),年齢,受傷前の歩行能力,認知症などがある。大腿骨頸部骨折の原因としては転倒が最も多い。こうした背景から,転倒予防は高齢者のADL保持に重要である。
転倒予防のために,転倒の危険性の把握,転倒予防対策,骨粗鬆症の予防と治療による総合的なアプローチが必要である。多くの研究で共通している転倒における危険因子として,転倒の既往,歩行能力の低下,特定薬物の服用(睡眠薬など),環境因子,が示されている。具体的な転倒予防対策として,運動,薬剤の調整などが重要である。
転倒予防対策の運動に関する研究の1例として,地域在宅高齢女性(73~90歳)52名を対象に,介入群と対照群に無作為に割り付け,介入群に対しては筋力,バランス能力および歩行能力の改善と強化を目的とした6カ月間の転倒予防プログラムを実施し,8カ月後と20カ月後に転倒発生について調査したところ,転倒は有意に抑制されたという報告がある1)。
薬剤に関しては,転倒に関連する薬のメタ解析として,抗うつ薬,抗精神病薬,睡眠薬,降圧薬などが転倒リスク上昇と関連していた2)。睡眠薬などの薬剤の減量・中止を検討するなど,常に転倒リスクを意識した診療が求められる。
【文献】
1) Suzuki T, et al:J Bone Miner Metab. 2004;22 (6):602-11.
2) Woolcott JC, et al:Arch Intern Med. 2009;169 (21):1952-60.
【解説】
伊奈孝一郎 名古屋大学医学部附属病院老年内科