近年,画像診断の進歩により無症状の膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor:pNET)が指摘される頻度が少なくありません。超音波内視鏡下穿刺術(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration:EUS FNA)により組織診断も可能であり,低侵襲手術も開発されています。しかし,手術リスクとして膵液漏などの短期リスク,糖尿病などの長期リスクなどがあり,経過観察を行うこともしばしばです。無症状の小型pNETの切除適応についてご教示下さい。国立がん研究センター・岸 庸二先生にお願いします。
【質問者】
齋浦明夫 がん研究会有明病院肝胆膵外科部長
pNETの中でも,ホルモン症状のない非機能性pNET(non-functioning pNET:nf-pNET)に遭遇する機会は増えており,わが国の疫学データでも,2005年と比較して2010年には1.7倍に増加したと報告されています1)。
nf-pNETは多くの場合slow growingで,低悪性度に位置づけされますが,サイズを問わずリンパ節転移のリスクがあるため,わが国の「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」においては原則,全例切除の対象とされています。一方,「NCCNガイドライン」では,2cm以下のnf-pNETは,経過観察も1つの選択肢になっています。その背景には,いずれもretrospective studyではありますが,1~2cm以下程度のnf-pNETについて,中央値3~5年程度の期間,増悪なく安全に経過観察可能であったという複数の報告があります。そのうち,「NCCNガイドライン」に引用された文献には,Memorial Sloan Kettering Cancer Centerにおける104の経過観察症例(腫瘍径中央値1.2cm)の経過が報告されており,26例が途中で切除,残る78例は経過観察を継続し,いずれも腫瘍増悪,原病死がなかったとされています2)。
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