中南米原産のヒアリ(Solenopsis invicta)が国内各地の港湾で見つかり騒動になっています。本稿を執筆中の7月18日現在で尼崎市内から始まり神戸、大阪、名古屋、東京港での発見が報じられていますが、活字になるまでにはさらに報告が増えていることでしょう。
その報道はしばしば「殺人毒アリ」「家畜を食い殺す」などセンセーショナルな大見出しをともない、一般社会の理解も誇張されたものとなりがちですが、アナフィラキシーショックを理由とする死亡例とされるものは、手遅れにならなければ助かっていた「本来死ななくてもよかった死」と思われるもので、医療界、一般社会へのリスクコミュニケーションが求められます。
本稿ではヒアリおよびその健康被害について紹介します。
ヒアリの原産国は中南米で、そこを起点に米国、カリブ海諸国、中国、台湾、オーストラリアなどへ棲息域を広めています。原産国以外はすべて、船荷によって運ばれた人工的拡大です。このような人工的拡大は古くから認められ、たとえば同属のアカカミアリ(Solenopsis geminata, 通称Tropical fireant)は16世紀、原産国のアカプルコの港から西インド諸島航路を通りフィリピンへ、そしてマニラをハブとして中国をはじめアジア全域に拡大したといわれています1)。グローバリゼーションの現代、地理的拡大はますます加速すると思われます。
日本への流入の可能性は、ヒアリ定着国からの船荷の多さもあり(たとえば中国からのコンテナ船入港数は東京港、横浜港、名古屋港、大阪港、神戸港がほぼ横並びで30便/週前後2))、かねてより懸念されてきたところで、環境省は2009年に「ストップ・ザ・ヒアリ」と題する啓発パンフレットを公表しています3)。
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