我が国の肝癌の診断時の平均年齢は男性66.4歳,女性69.9歳で,年々高年齢化している。発癌危険群の囲い込みや肝炎ウイルス治療の進歩により肝癌の死亡数は減少傾向であるものの,近年,C型肝炎ウイルス(HCV)抗体陰性,HBs抗原陰性のいわゆる「メタボ肝癌」が増加している1)。
当科の肝細胞癌(hepatocellular carcinoma;HCC)肝切除症例の背景肝疾患は,C 型肝炎,B型肝炎,non B non Cで,それぞれ55.8%,15.3%,28.4%(2004~07年)から,45.2%,18.7%,34.9%(2008~11年)とnon B non C肝癌の占める割合が明らかに増加している。今後,メタボ肝癌の明確な定義および外科治療(肝切除および肝移植)後の再発予防策の確立が急務である。
肝細胞癌の集学的治療は肝切除,アブレーション治療,肝動脈塞栓治療で構成されるが,近年は肝移植,インターフェロン,ソラフェニブが集学的治療の一員として導入されてきた。肝移植では肝不全症例に対するミラノ基準内の肝細胞癌で保険適用となるが,肝移植までの治療歴は問われていない(最終治療から3カ月以降という条件のみ)ので,肝切除やアブレーション治療を繰り返した後の再発肝細胞癌の治療オプションとして応用可能である。
しかし,保険適用は肝不全症例かつミラノ基準に限定されているため,肝機能の良好な症例や,ミラノ基準を少し超えた症例には適用できない。保険適用を拡大する根拠となるエビデンスは各施設で積み重ねられてきているので2)3),今後はオールジャパンでの解析データを待って保険適用拡大が期待されている。
また,HCVが背景肝疾患となっている場合には,集学的治療後のHCV駆除によるHCV持続陰性(sustained virological response;SVR)が,長期成績向上のためには重要である。ペグインターフェロンとリバビリンの2剤併用療法でSVR達成成績が徐々に向上してきたが,最近ではプロテアーゼ阻害薬テラプレビルとの3剤併用療法で著明なSVR達成率が得られたとの報告が出され,HCVを背景とした肝細胞癌集学的治療の成績向上が期待されている。
一方,B型肝炎ウイルス(HBV)が背景疾患となっている場合には,ラミブジンやエンテカビルなどの核酸アナログ製剤の登場によって,HBVを再燃させないためのコントロールは良好である。今後は,より安全で,より費用対効果が良好なHBVワクチンの治療成績向上が課題である。
◉文 献
1) Cauchy F, et al:Br J Surg. 2013;100(1): 113-21.
2) Kaido T, et al:Transplantation. 2009;88 (3):442-3.
3) Kaido T, et al:Liver Transpl. 2010;16 (4):538-40.
最も注目されるTOPICとその臨床的意義
TOPIC 1/抗ウイルス薬,分子標的治療薬による肝細胞癌治療パラダイムシフト
プロテアーゼ阻害薬であるテラプレビルの導入によってC型慢性肝炎におけるウイルス駆逐成績(SVR)が飛躍的に向上することが報告され,肝細胞癌症例における肝切除や肝移植術後のHCV治療にも応用が始まっている。一方,切除不能肝細胞癌に対する分子標的治療薬として登場したソラフェニブは,術後補助化学療法としての効果を評価する複数の試験が進行中である。これらの再発予防の標準療法が確立されれば,肝切除や肝移植の治療意義が増すと考えられる。
この1年間の主なTOPICS
1 抗ウイルス薬,分子標的治療薬による肝細胞癌治療パラダイムシフト
2 腹腔鏡下肝切除術の展望
3 肝移植におけるサルコペニアの意義
4 腹腔鏡下膵切除術
5 神経内分泌腫瘍診療の進展
これまで,肝細胞癌は背景肝疾患の存在から,治癒切除を行っても高率に多中心性発癌を認め,治癒は望めないとされていた。実際,肝切除後の5年再発率は70~80%と言われ,欧米でも肝細胞癌の主な根治的治療はがんと背景肝を同時に治療する肝移植が主流であった。しかしながら,近年の抗ウイルス薬および分子標的治療薬の開発により,肝細胞癌治療のパラダイムシフトが期待される。
HCVに対する抗ウイルス薬の開発が急速に進んでいる。プロテアーゼ阻害薬であるテラプレビルはペグインターフェロン,リバビリンとの3剤併用療法で,これまでにない高いSVR率を達成し,2011年11月に保険適用となった。
さらに,ポリメラーゼ阻害薬sofosbuvirにおいては,従来HCV駆除に必要とされていたインターフェロンを併用しないインターフェロンフリーレジメンの有効性が報告された1)。
そして,インターフェロンフリーでの有効性と安全性が明らかにされた初めての抗ウイルス薬として,2013年12月6日付けでFDA(Food and Drug Administration:米国食品医薬品局)から承認された。その適応には,肝移植を待つミラノ基準内の肝細胞癌患者も含まれている。耐性ウイルス誘導の懸念があるものの,HCVを背景とした肝細胞癌に対して,肝切除もしくは肝移植の周術期に抗ウイルス薬を用いる治療戦略の一般化が期待される。
ソラフェニブは,2008年に進行肝細胞癌における有効性が大規模二重盲検無作為化比較試験(SHARP試験)で示され2),我が国においても2009年に保険収載された分子標的治療薬である。現在,Child-Pugh分類Aで,①肝外転移を伴う,②脈管侵襲を伴う,③肝動脈塞栓療法不応・不能の切除不能肝細胞癌に対して用いられる。その後多くの無作為化比較試験(RCT)が施行されたが,ソラフェニブに続く有効な分子標的治療薬は登場していない。
一方,これまで「肝細胞癌肝切除後の予後改善を目的とした術後補助化学療法として推奨できるものはない」とされてきたが,現在,術後補助化学療法としてのソラフェニブの効果を評価するSTORM試験が行われている。再発予防の標準療法が確立されれば,さらに肝切除の意義が増すと考えられ,結果が期待される。
高度門脈腫瘍栓(Vp3/4)を伴う肝細胞癌は予後不良であり,海外においてはソラフェニブの適応とされているが,その生存期間中央値は8.1カ月とされる。日本肝臓学会のコンセンサスガイドラインにおいては,ソラフェニブもしくは肝動注が推奨されている。
筆者らは以前よりVp3/4肝細胞癌に対して積極的に肝切除を行ってきた。さらに2001年より術後再発予防として肝動注を導入した。Vp3/4肝細胞癌において,肉眼的治癒切除が安全に施行され,術後早期より肝動注が施行できれば,良好な予後が期待できる。切除不能例であっても肝動注により切除可能となる症例があり,その予後は良好である。
今後,肝動注+ソラフェニブにより奏効率が向上すれば,さらにconversionできる症例が増加することが期待される。進行肝細胞癌といえども,常に肝切除の可能性を追求する,「肝切除を主軸とした肝癌集学的治療戦略」を確立する必要がある。
◉文 献
1) Gane EJ, et al:N Engl J Med. 2013;368(1): 34-44.
2) Llovet JM, et al:N Engl J Med. 2008;359 (4):378-90.
1991年にReichら1)によって最初の報告がなされて以降,我が国において一部の施設でのみ行われていた腹腔鏡下肝切除術は,2010年4月に腹腔鏡下肝部分切除術および肝外側区域切除術が保険収載された。これを契機に多くの施設で施行可能となり,症例の蓄積により手術手技は定型化され,安全性も確保されつつある。
腹腔鏡下肝切除術は,傷が小さいだけでなく開腹肝切除術と比較して早期離床,早期経口摂取開始,入院期間の短縮,術後の癒着の軽減などが利点とされている2)。現在,腹腔鏡下肝切除術の適応疾患の多くは,肝細胞癌と大腸癌の肝転移である。「肝癌診療ガイドライン」および「大腸癌治療ガイドライン」において根治的治療の中心は肝切除であり,この方針は再発時においても同様である。
術後サーベイランスの確立と化学療法の進歩に伴い,再肝切除・再々肝切除症例に遭遇する機会が増加しているが,術後の癒着が少ないとされる腹腔鏡下肝切除術は,再切除の安全性および術後合併症の軽減に貢献すると考えられる。
生体肝移植ドナー肝切除術においても,創関連愁訴は重要な問題となっており,2002年にCherqui3)らが生体肝移植ドナー手術における腹腔鏡下肝切除術を報告して以降,国内外で完全腹腔鏡下や腹腔鏡補助下で行われるようになっている。諸家の報告において,手術時間は短く,出血量が少ない傾向にあるとされているが,これらは腹腔鏡下肝切除術に精通した施設からの報告である。ドナー肝切除術においては,安全が最優先されるべきであり,現在のところ腹腔鏡下肝切除術は,限られた施設でのみ施行が可能な術式と考える。
導入当初から腹腔鏡下肝切除術は安全性(出血時の対応)と手術の質(根治性)の確保が問題視されてきた。近年,超音波凝固切開装置を用いた肝切離およびモノポーラ・バイポーラ電極を用いた止血器具の進歩と気腹の影響で,易出血性な実質臓器である肝の切離が,開腹手術より少ない出血で可能である。また,肝は複雑な局在解剖を有しており,導入当初は手術操作が比較的容易な外側区域あるいは下区域(Couinaud分類でのS4a, S5, S6)の表面や辺縁が適応と考えられていた。
2012年度診療報酬改定の重点項目である医療技術の評価として,肝切除術における画像支援ナビゲーションも評価されるようになり,肝癌や肝内胆管癌の術前・術中に3次元画像を利用する頻度が増加している。さらに腹腔鏡下でも造影超音波が可能となり,制限のある視野で触覚のない状態で行う腹腔鏡下肝切除術において,安全性の向上だけでなく,手術の質の向上にも寄与している。
低侵襲な腹腔鏡下肝切除術は,手術機器の開発・改良および手術手技の標準化により今後の適応拡大が期待されているが,標準術式になりうるためには多施設共同RCTによる安全性および根治性の検証が必要である。また,胆膵領域への適応拡大に際しては,さらに慎重に段階を踏むことが肝要であると考える。
◉文 献
1) Reich H, et al:Obstet Gynecol. 1991;78(5 Pt 2):956-8.
2) Vigano L, et al:J Hepatobiliary Pancreat Surg. 2009;16(4):410-21.
3) Cherqui D, et al:Lancet. 2002;359 (9304):392-6.
最近,栄養学やリハビリ,老年医学の分野でサルコペニアが注目されている。サルコペニアとは,筋肉(sarco)が減少する(penia)ことであり,成因によって,一次性サルコペニアと二次性サルコペニアに分けられる。前者は加齢によるものであり,一方,後者は活動性の低下(廃用)や低栄養,臓器不全や侵襲,腫瘍などの疾患に伴うものである。
肝移植対象患者の多くは非代償性肝硬変の状態にあり,浮腫や腹水による活動性の低下に加え,低栄養かつ肝不全状態と,まさに二次性サルコペニアのカテゴリーに当てはまる。しかし,これまで肝移植患者における全身骨格筋量を測定した報告はなく,サルコペニアの意義も明らかではなかった。
2013年,肝移植におけるサルコペニアの意義について,興味深い報告が日本と米国から発表された。日本からは生体肝移植患者のサルコペニア評価とアウトカムに与える影響,さらに周術期栄養療法の意義に関する論文1)2),米国からはサルコペニアと移植後重症感染症との関係に関する論文3)である。
Kaidoら1)は,京都大学において成人生体肝移植を施行した124例に対して,体成分分析装置(InBody720®)を用いて術前骨格筋量について評価した。その結果,実際の骨格筋量と標準骨格筋量(性と身長から自動的に計算される値)との比の中央値は92%(65~132%)であった。標準値との比が90%未満をサルコペニアと定義すると,全体の38%がサルコペニアであった。
また,標準骨格筋量との比と各種パラメータとの相関について検討したところ,年齢,性,総リンパ球数,亜鉛,プレアルブミン,Child-Pugh分類,MELD(model for endstage liver disease)スコアのいずれとも有意な相関が認められず,標準骨格筋量との比はこれら既存のパラメータとは独立した因子であった。さらに,Child-Pugh C患者においてサブグループ解析を行ったところ,「浮腫なし」群に比べて「高度浮腫」群は,有意に標準骨格筋量との比が低値であった(P=0.029)2)。
次に,標準骨格筋量との比が90%未満であるサルコペニア群と,90%以上である非サルコペニア群の2群に分け,移植後生存率を検討したところ,サルコペニア群は,非サルコペニア群に比べ,有意に移植後生存率が不良であり(P<0.001)1),術前骨格筋量低値は,肝移植後の独立予後規定因子であった(オッズ比4.8)。さらに肝移植周術期栄養療法の意義について検討したところ,サルコペニア群では,「栄養療法あり」群が,「栄養療法なし」群に比べ,有意に術後生存率が改善した(P=0.009)1)。
Krellら3)は,成人肝移植患者207例に対し,術前CTを用いて腸腰筋面積(total psoas area;TPA)を測定し,移植後感染との相関を検討した。その結果,低TPA群は,高TPA群に比べ,4倍以上高率に移植後重症感染症が発症し,重症感染症発症患者の死亡率は非発症患者の2.4倍であった。さらに多変量解析にて,術前の低TPAは移植後重症感染症発症の独立危険因子であった(ハザード比0.38)。
したがって,術前サルコペニアは肝移植術後短期成績と密接に関連しており,移植後短期成績向上のカギは周術期栄養療法とリハビリ療法であると言っても過言ではない。
◉文 献
1) Kaido T, et al:Am J Transplant. 2013;13 (6):1549-56.
2) Kaido T, et al:Am J Transplant. 2013;13 (9):2506-7.
3) Krell RW, et al:Liver Transpl. 2013;19 (12):1396-402.
腹腔鏡下膵切除術は,すでに諸外国では,良性膵腫瘍から浸潤性膵管癌まで様々な疾患に対して行われてきており,出血量の減少,創部感染症の減少,術後疼痛軽減,入院期間短縮などの長所が示されてきた1)2)。我が国でも,2012年4月から,腹腔鏡下膵体尾部腫瘍切除術が保険収載され,全国で広く行われるようになった。
国内では,腹腔鏡下尾側膵切除術は,主に,粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm;MCN),膵管内乳頭状粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;IPMN),神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;NET),solid pseudopapillary neoplasm(SPN)などの非浸潤性腫瘍を対象として行われている。腹腔鏡下尾側膵切除術には,脾摘を伴う術式,脾臓と脾動静脈を温存する術式(Kimura術式),脾臓と短胃動静脈は温存するが脾動静脈を切除する術式(Warshaw術式)がある3)。リンパ節郭清を要さない疾患では,脾臓・脾動静脈温存術式の良い適応となるが,温存術式は脾動静脈の細く短い分枝を適切に止血・切離する必要があることから,難易度が高い。日本内視鏡外科学会の技術認定制度では,保険収載に合わせて,腹腔鏡下尾側膵切除術(脾合併切除または脾温存)の審査を開始し,同術式の安全な普及と標準化を推進している(http://www.jses.or.jp/member/gijutsu1.html)。
2013年にDaouadiら4)は,ロボット支援尾側膵切除術と従来の腹腔鏡下尾側膵切除術を比較するレトロスペクティブ解析において,膵癌症例におけるR0率はロボット支援手術で有意に良好であったことを報告している。ロボット支援手術と開腹手術の比較検討においても,R0率はロボット支援手術が開腹手術よりも高い傾向にあった5)6)。今後の臨床研究により,浸潤性膵管癌に対するロボット支援手術の短期および長期予後を明らかにすることが重要と考えられる。
2009年11月に,米国Intuitive社のda Vinci® Surgical System Sが,我が国でも薬事承認され,2013年2月にはda Vinci® Surgical System Siの販売が開始された。国内では前立腺手術を除いては保険適用はないが,先進医療申請を目指して,ロボット支援膵切除術が行われるようになってきた。藤田保健衛生大学,京都大学,弘前大学などで,倫理委員会の承認を得て,校費または自費診療によるロボット支援膵切除術が実施されている。京都大学では,artery-first approachによるロボット支援膵体尾側切除術を実施し,良好な短期成績を得ている7)。ロボット支援手術の長所として,3Dスコープにより立体視が可能なことに加えて,手ブレのない高精細画像により従来の腹腔鏡よりもさらに拡大された視野が得られることがある。これにより,これまで視認され難かった外科解剖が明瞭に認識されるようになった。詳細な外科解剖の認識は,開腹手術にもフィードバックされている。
◉文 献
1) Takaori K, et al:Surg Today. 2007;37(7): 535-45.
2) Nakamura M, et al:J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2013;20(4):421-8.
3) 高折恭一, 他 編:膵臓の内視鏡外科手術. メジカルビュー社, 2010, p20-6.
4) Daouadi M, et al:Ann Surg. 2013;257(1): 128-32.
5) Waters JA, et al:Surgery. 2010;148(4): 814-23.
6) Zhou NX, et al:Int J Med Robot. 2011;7 (2):131-7.
7) 高折恭一, 他:消化器ダヴィンチ手術のすべて(土田明彦, 他 編). 医学図書出版社, 2013, p203-13.
従来カルチノイドと呼ばれてきた神経内分泌腫瘍はWHO2000規約にてNET(neuroendocrine tumor)と総称され,WHO2010規約では,予後を基に病理組織におけるKi67あるいは核分裂数によって分類されることとなった1)。すなわち,高分化型NETをG1(Ki67≦2%,核分裂数<2/10high power field;HPF),G2(2%<Ki67≦20%,2/10HPF≦核分裂数≦20/10HPF)に分類して,NEC(Ki67>20%,核分裂数>20/10 HPF)を加え,3分類とした規約である。改訂以来,広く用いられているが,いくつかの問題点も指摘されている。例えばG1とG2を分けるKi67のカットオフ値を5%としたほうがより臨床予後を反映するという報告や,腫瘍の発生部位によってKi67の適切なカットオフ値が異なるという指摘もあり,今後より多くの症例を用いた病理学的検討が望まれる。
一方,NECとされている集団には高分化型の病変とともにいわゆる小細胞癌と大細胞神経内分泌癌(large cell neuroendocrine carcinoma;LCNEC)に相当する中・低分化型の病変が含まれている。全体で解析すると,高分化型と中・低分化型では予後に差異はないものの,症例ごとでみると,治療法などを含めて臨床病態はかなり異なる可能性があり,高分化型NETG3という概念をNECから分離する必要があるのではないかとの議論がされるようになってきた。
長らくNETの転移巣に対する治療法としては外科手術,肝転移に対する血管内治療が中心となっていたが,ここ数年で新規治療薬が保険適用となり,治療選択肢が広がっている。
その嚆矢は膵NETに対して2011年12月に承認されたエベロリムスである。RADIANT-3試験では,エベロリムスがプラセボと比較して,無増悪生存期間の中央値を4.6カ月から11.0カ月に延長することが示された2)。また,2012年8月に承認されたスニチニブは海外共同第Ⅲ相試験において無増悪生存期間をプラセボに比べ約2倍に延長させることが示された(中央値11.4カ月vs. 5.5カ月)3)。
両者を直接比較した試験がないため,実臨床上での使い分けは副作用の観点からなされていることが多い。すなわちエベロリムスは感染症リスクの低い症例,スニチニブは心疾患,高血圧などのリスクの低い症例への使用が適切と考えられている。一方,消化管NETに対してはオクトレオチドがPROMID試験にて有意に予後を改善し,我が国では2011年11月に保険承認された。
このようにNETに対して効果的な薬物療法が徐々に出現してきており,今後は術後補助化学療法への展開や転移巣に対する術前化学療法としての使用が期待されている。
比較的稀少な腫瘍であり,膵,消化管,肺,副腎など全身に発生する神経内分泌腫瘍を一元的に扱う組織が我が国にこれまでになかったことを踏まえて,全国300余の施設が会員となり,2012年9月に日本神経内分泌腫瘍研究会が発足した。主たる事業として,神経内分泌腫瘍患者登録事業,診療ガイドラインの作成とその改訂,年1回の学術集会の開催を実施するとともに,各種委員会活動とプロジェクト研究活動を行っている。
2013年11月には『膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン第1版』が日本神経内分泌腫瘍研究会のホームページで公開された。本ガイドラインは登録事業およびプロジェクト研究を踏まえたエビデンスを基に改訂を随時進めていくことが予定されており,日常診療での指針となることが期待される。
◉文 献
1) Bosman FT, et al:WHO Classification of Tumours of the Digestive System. 4th ed. IARC Press, 2010.
2) Yao JC, et al:N Engl J Med. 2011;364(6): 514-23.
3) Raymond E, et al:N Engl J Med. 2011;364 (6):501-13.