法医解剖には司法解剖,行政解剖,承諾解剖の3種類があり,それぞれ,犯罪捜査,公衆衛生,死因究明を解剖目的としている。
4番目の法医解剖として,2013年4月1日から「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」に基づく解剖(死因・身元調査法解剖,新法解剖)が加わった。警察署長の権限で実施され,司法解剖と同様,大学法医学教室で解剖される。司法解剖のような煩雑な司法手続きは不要で,身元不明の場合,遺族の許可がなくても実施できる。解剖の目的は,①死因を明らかにして遺族の不安を緩和する,②異状死体の解剖率の増加,③身元確認の徹底,④犯罪の見逃し防止,などである。
15年に警察に届けられた異状死体総数は16万2881体で,そのうち法医解剖2万121体(司法解剖8424体,新法解剖2395体,行政・承諾解剖9302体),解剖率12.4%であった。新法解剖の多い地域として,神奈川県(558体),兵庫県(382体),東京都(350体)などがある一方で,1桁や未実施の地域もある。実際の運用は司法解剖ほど犯罪性が高くないが,諸処の理由(乳幼児突然死,若年者の突然死,ホームレス,独居高齢者の在宅死)で,解剖したほうがよいと考えられるときに実施される。各都道府県警察の考え方,法医学教室のマンパワーにより,地域ごとで実施のばらつきが大きい。
開始4年になり,東京都では司法解剖より新法解剖の実施件数が多い。今後,全国的に新法解剖の実施件数が多くなると考えられる。
【解説】
上村公一 東京医科歯科大学法医学教授