▶安倍晋三首相が9月末に開会する臨時国会冒頭で衆議院を解散し、10月に総選挙を行う意向であることが報じられている。民進党は分裂騒動、“小池新党”はまだ立ち上がっていないなど、政局的に見れば解散するにはもってこいのタイミングだ。注目される争点だが、さすがに“北朝鮮危機解散”と銘打つわけにもいかないようで、消費税率引上げによる財源の一部を教育の無償化に充て、目玉の政策に掲げる方針を固めたという。
▶改めて述べるまでもなく、消費税率引上げは社会保障・税一体改革の柱。旧民主党政権時の2012年に三党合意で社会保障四分野の安定・充実を図るため、二段階で10%まで引き上げることを決め、国民に増税の理解を求めたもので、財政健全化の役割も担う。「人づくり」は確かに大切だが、使い道を限定している一体改革法に反する。仮に拡大解釈が可能としても、歳出を増やさない限り社会保障が割を食う形になり、明らかに筋が違う話だ。
▶安倍首相がこうした方針を公約として掲げるのであれば、一体改革の理念と枠組みを根底から覆すことになる。その際は「教育にまで対象を広げる」と説明するのではなく、「一体改革は止めて新しい社会保障のあり方を提案する」と明示し、医療や介護、年金への影響にも言及すべきだ。
▶財政健全化という目標はどうか。高齢化に伴う一定程度の歳出拡大が社会保障では不可避な上に、教育だけでなく他の分野からの要望も相次ぐ可能性が高く、目標としている2020年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化は当面先送りになったと見ていいだろう。社会保障の安定・充実と財政健全化という一体改革の狙いは、もはや風前の灯火になっている。