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【一週一話】パーキンソン病,随伴する認知症,そして嗅覚低下

No.4684 (2014年02月01日発行) P.88

武田 篤 (国立病院機構仙台西多賀病院神経内科・副院長)

登録日: 2014-02-01

最終更新日: 2017-09-27

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パーキンソン病,随伴する認知症,そして嗅覚低下

パーキンソン病(Parkinson disease;PD)は振戦,無動,筋強剛など特徴的な運動機能障害を示す神経変性疾患として知られてきたが,特に近年において,こうした運動症状にとどまらず多彩な非運動症状を呈する全身疾患であることが解明されてきた。PDの非運動症状には認知機能障害,うつなどの精神機能障害,便秘や起立性低血圧などの自律神経障害,レム睡眠行動障害などの睡眠障害,嗅覚低下などの感覚障害などがあり,全経過を通じて患者QOLを大きく低下させる要因となっている(表1)。

各症状の相互関係を解析した結果,PDにおける嗅覚低下は短期記憶の障害と密接に関連し,視覚認知を含む全般的な認知機能障害とも関連することを筆者らは報告した1)。さらに3年間の縦断研究の結果から,重度の嗅覚障害を呈するPD症例が高率(約40%)に認知症に陥ることがわかった2)。嗅覚低下・認知機能障害の程度は,運動機能障害の重症度とは必ずしも関連していなかったことから,運動機能障害の主な原因である中脳黒質のドパミン不足とは別に,嗅覚低下・認知機能障害を生じる病理進展プロセスがPDにおいて存在することが示唆された。

パーキンソン病認知症とレビ—小体型認知症

PDでは認知症を合併しない病初期からすでに,遂行機能障害や注意障害,そして視空間認知障害などの認知機能障害が高頻度に見られることがわかってきた。これらはPDの進行とともに次第に増悪する。さらに,病初期には比較的保たれている記憶や言語機能の障害がこれらに加わって,日常生活に支障を来すレベルにまで認知機能が低下した状態がパーキンソン病認知症(PDD)である。

全PD中で20〜40%の症例がPDDであり,PDからPDDへの進展は平均10年程度,最終的に20年の経過で80%がPDDに移行すると報告されている3)。また,PDD発症後の平均余命は3年程度であるとする報告もある。すなわち,PDにおける認知機能障害の併発はきわめて高頻度で,ドパミン補充療法を中心とした薬物療法が発達した現在,PDの予後を最も大きく左右するのは随伴する認知症であることが,次第に明らかとなってきた。

PDDの中核的な認知機能障害は,レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)の認知機能障害の特徴とも一致している(表1)。臨床経過の情報なしに,剖検脳の病理像の上からPDDとDLBを区別することは不可能であり,両者を区別するのはその臨床経過でしかない。すなわちパーキンソニズムが発症し,その後に認知機能障害が加わっていくのがPDDであり,その逆に認知機能障害で発症するのがDLBと呼称されている。

PDDとDLBを厳密に区別する必要がある場合,運動機能障害が認知機能障害より1年を超えて先行する場合がPDD,そうでない場合がDLBと分類される。これは“1 year rule”と呼ばれるが明らかに人為的な区分であり,両者の違いとは障害パターンの濃淡の違いにすぎないことが示唆される3)

レビ—ス小体病としてのPD,PDD,DLB

以上から,全体をレビー小体病と捉える考え方が提唱されてきた。レビー小体の出現を特徴とする病理変化が脳幹を中心として広がる時,古典的な運動症状を中心としたPDの症候を呈し,嗅球から大脳辺縁系に広がる時,嗅覚障害や認知機能障害が出現してPDDやDLBの臨床像が完成すると考えることもできる(図1)。PD,PDD,DLBを含んだレビー小体病の予後を決めるのが,認知機能障害の重症度であることが明らかとなってきた現在,その治療介入法の確立が急務となっている。

レビー小体病の認知機能障害にはしばしば幻覚,妄想などBPSDが伴い,介護の面で大きな支障となることが多い。しかし,精神症状を治療しようと向精神薬を用いると容易に運動機能障害が増悪し,誤嚥性肺炎などを合併し重篤な状態に陥る場合も少なくない。一方でレビー小体病における認知機能低下と大きく関連するのが中枢神経系のアセチルコリン低下であること,コリンエステラーゼ阻害薬による治療効果は,むしろアルツハイマー病以上に大きいこともわかってきた。

歴史的にPDの運動機能障害に対して用いられてきた抗コリン薬は,こうした背景から次第に使用されなくなってきている。現在筆者らは,PDの嗅覚低下をバイオマーカーとして,認知機能障害が重篤となる前にドネペジルの治療介入を行うことでPDの予後が改善できないかを確認するための臨床研究(https: //upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr.cgi?function=brows&action=brows&recptno=R000011661&type=summary&language=J)を進めている。


●文献

1) Baba T, et al:Mov Disord. 2011;26(4):621-8.

2) Baba T, et al:Brain. 2012;135(Pt1):161-9.

3) 武田 篤:日臨増刊号. 2011;69(1012):350-5.

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