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(3)特発性正常圧水頭症(iNPH)の治療[特集:超高齢社会の今,特発性正常圧水頭症(iNPH)に注目を!]

No.4876 (2017年10月07日発行) P.41

鮫島直之 (東京共済病院脳神経外科正常圧水頭症センター副部長)

登録日: 2017-10-06

最終更新日: 2021-01-07

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  • iNPHは,シャント手術により歩行障害,排尿障害,認知症の改善が期待でき,多くの患者でmRS1以上の改善が図れる

    iNPHに対するシャント手術は,わが国で施行した2つの研究〔iNPHに対するVPシャントで行われた多施設共同前向き臨床試験(SINPHONI)1)と,続いてLPシャントで行われた多施設共同前向き臨床試験(SINPHONI-2)2)〕で有効性と安全性が示され,その成果が国内外に発信された

    手術法では,低侵襲で脳室穿刺を行わないLPシャントが増加している

    シャントの効果を最大限発揮するためには,術後の生活指導や,圧設定の管理が必要である

    LPシャント手術手技はシンプルな手技であるが,高齢者が対象となり,合併症の回避が重要である。些細なことがシャント効果に影響するため,小さな工夫やポイントがある

    頻度は低いが,硬膜下血腫やシャント不全,神経痛などの合併症をさらに減らすために,至適圧決定方法の確立やこれら問題解決に向けたデバイスの開発が課題である

    1. 特発性正常圧水頭症(iNPH)の治療法

    特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)の治療の主体はシャント手術である。診療ガイドラインが2004年に発刊3),11年に改訂4)され,検査方法に加え,治療法が示された。

    手術方法には,脳室-腹腔短絡術(ventriculo-peritoneal shunt:VPシャント),腰部くも膜下腔-腹腔短絡術(lumbo-peritoneal shunt:LPシャント),脳室-心房短絡術(ventriculo-atrial shunt:VAシャント)がある。わが国の超高齢社会突入も相まって徐々に関心が高まっており,全国のシャント術件数もここ数年着実に増加してきている。世界的にも臨床研究や基礎研究は拡大してきている。

    わが国ではSINPHONI(Study of Idiopathic Normal-Pressure Hydrocephalus on Neurological Improvement)1)という多施設共同前向き臨床試験の成果として,iNPHに対するVPシャントの有効性が証明された。続いて行われたSINPHONI-2(同じく多施設共同前向き臨床試験)2)では,LPシャントのVPシャントと比較しての非劣性が証明された。近年は脳に穿刺を行わず,腰部くも膜下腔から腹腔へ髄液を導くLPシャント手術は特に注目されてきている。

    手術法に関する調査では,1996年に実施した正常圧水頭症研究会での全国調査で,VPシャント91%,LPシャント5%,VAシャント2%の施行率であったが,2015年に実施した難治性疾患克服研究事業「正常圧水頭症の疫学・病態と治療に関する研究」班での全国疫学調査では1233例中,施行率はVPシャント45.5%,LPシャント52.4%,VAシャント2.1%であり,LPシャントを選択する施設が増えてきている。

    2. 東京共済病院脳神経外科正常圧水頭症センターにおけるiNPHに対するLPシャント手術

    iNPHに対してLPシャントを第一選択としている当センターにおけるLPシャントについて,2012~13年に施行した連続102例を15年までの2年間追跡した結果5)をもとに説明する。

    1 手術適応とLPシャント手術

    60~85歳を調査対象としたSINPHONI-2では,治療患者の平均年齢は76.4歳であった。当センターでは78.3±7.0歳とさらに高齢であったが,86歳以上の高齢者は102例中14例(13.7%),さらに91歳以上の2例(1.9%)に対してもシャント治療を行っている。86歳以上でも治療によって改善が認められる患者も存在することから,症例によっては低侵襲で安全なLPシャントの適応と考えている。その際,全身状態の評価は重要であり,当センターでは呼吸機能検査,心エコー検査は必須としている。特に,基礎疾患から抗血小板薬,抗凝固薬を内服している高齢者は多いことから,休薬のリスクを十分に検討する必要がある。

    iNPH患者は,症状の軽い初期段階から転倒しやすく,骨折も多い6)ことが診断の手掛かりになる。骨折の既往があっても,治療により歩行の改善が期待できる。手術適応を判断するには,タップテスト(腰椎穿刺にて脳脊髄液を30mL排液)が1つの指標になる1)2)。当センターでは全例タップテストを施行している。テスト後に,特徴的な歩行障害の改善に加え,頻尿,尿失禁の改善をみる。排尿障害の改善は,本人や家族にとって非常に感謝される要因のひとつである。

    iNPHはアルツハイマー型認知症との併存例も稀でないと言われている4)7)。もともと認知症がある場合など,タップテスト後の改善を実際に見てもらい,客観的評価を共有し治療適応を決めていくことが重要である。

    LPシャントの術式を選択するには,脊柱管の評価が必須である。全脊椎MRIを施行し,頸椎から腰椎にかけて脊柱管狭窄などの疾患を認めたものはLPシャントの適応外である。また,高齢者は腰椎が変形していることが多く,穿刺が容易でないことがある。術前に3D-CTによる腰椎の評価を行い,変形の強い腰椎には傍正中穿刺を選択している。

    手術は全身麻酔下で施行している。手術時間の平均は40~45分ほどである。独自に開発したドレープを使用し,腰椎側にチューブを挿入した後,ベッドを35度傾けて行うことで,途中でドレープ交換をせず,腹腔側のチューブを通すことができ,術中感染の合併症も少ない。チューブはシリコン製であり,背部から左腹部の皮下を通る。創部は背部と腹部に2cmほどのものが2箇所と,中継点となる左側腹部に1cmほどのもの1箇所の計3箇所である。圧設定可能の可変バルブを左背部皮下に設置する。手術に際しては,腹部創部へのアナペイン®(ロピバカイン)注局所注射による除痛や,術中からの保温,尿道カテーテル早期抜去など,高齢者特有のせん妄を減少させる対策をとっている。

    高齢者でもあり,手術翌日には食事を開始するとともに,歩行のリハビリテーションを開始し,早期離床に努めている。

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