認知症に対する根本的治療法の開発が進む中で,病態に基づいたより正確な診断法の確立が重要となっている。アルツハイマー病神経病理(Aβやタウ蛋白)そのものを標的とした治療法が開発され,続々と臨床試験に入っているが,このような治療法が実用化された場合,患者の脳内に神経病理が実際に存在しているかどうかを生前に知ることがきわめて重要になる。従来の臨床診断基準では,死後病理評価による確定診断との相関が十分ではないため,根本的治療法を適用する患者の選定が難しい,という問題が生じる。
この点に関して,現時点で少なくとも2つの方法によって脳内病理の存在を生前に評価することが可能になっている。1つは脳脊髄液中のAβやタウ蛋白を測定する方法で,非常に高い感度・特異度で脳内のアルツハイマー病神経病理の存在を予測することができる1)。もう1つはPET画像を用いた診断で,脳内の老人斑(Aβ)や神経原線維変化(タウ蛋白)に特異的に結合するトレーサーが開発されてきている。
一方で,認知症の様々な危険因子が明らかになりつつあり,早期介入の重要性が高まっている。脳内病理は認知症発症の10~20年以上前から既に出現していることがわかっており,髄液マーカーやアミロイド/タウPETを用いることで,理論的には発症前診断が可能である2)。今後は,より簡便で低侵襲な早期診断法の確立が望まれる。
【文献】
1) Tapiola T, et al:Arch Neurol. 2009;66(3):382-9.
2) Bateman RJ, et al:N Engl J Med. 2012;367(9): 795-804.
【解説】
武田朱公 大阪大学臨床遺伝子治療学准教授