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(2)わが国におけるロタウイルスワクチンの課題─効果と費用対効果とその評価 [特集:ロタウイルスワクチン定期接種化への課題:徹底解析]

No.4782 (2015年12月19日発行) P.26

岩田 敏 (慶應義塾大学医学部感染症学教室教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-31

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  • ロタウイルス胃腸炎は,わが国においても5歳未満の小児の間で毎年流行がみられ,5歳までに40~60人に1人程度の乳幼児が入院するリスクがあるといわれている

    ロタウイルスワクチンの導入により,わが国においても入院を要するロタウイルス胃腸炎の発生が減少しており,ワクチンがもたらしているインパクトは明らかである

    わが国における費用対効果の検討においては,医療にかかる費用が高額な諸外国と異なり,ワクチンによる便益が必ずしも明らかとならない場合もある。今後の定期接種化に向けての議論の中では,現在国内で既に認められているワクチンの効果をふまえ,保険医療にかかる費用以外の経済的負担やワクチンの価格なども含めて,慎重に検討していく必要がある

    1. わが国におけるロタウイルス感染症の疫学

    わが国にロタウイルスワクチンが導入されたのは,1価ワクチン(RV1:ロタリックス1397904493)が2011年11月,5価ワクチン(RV5:ロタテック1397904493)が2012年7月である。いずれも任意接種で生後6週から24週(RV1)もしくは32週(RV5)の乳児を対象に接種が行われている。定期接種化への議論は現在,厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の中で行われているところであるが,本稿では,わが国におけるロタウイルスワクチンのインパクトと費用対効果の評価について概説する。
    ロタウイルスは,5歳以下の乳幼児の重度胃腸炎の主な原因である1) 。ロタウイルス胃腸炎の好発年齢は生後6~24カ月であり,世界中の小児の95%が3~5歳までに感染するといわれ2) ,入院を伴う重症胃腸炎の原因として最も多いことが知られている3) 4) 。世界では年間2400万人が医療機関を受診し,240万人が入院すると推計されている1)。また米国のデータをもとにした試算では,わが国においても年間25万人が医療機関を受診し,3万人が入院すると推計されている5)。2007~2009年にKamiyaら6)が三重県で行った調査によれば,ロタウイルス胃腸炎の5歳未満患児の入院発生率は2.8~4.7/1000人・年であり,5歳までに37~61人に1人の乳幼児がロタウイルス胃腸炎で入院するリスクがあるということになる。
    わが国におけるロタウイルス感染症に関するサーベイランスとしては,全国に約3000箇所ある小児科定点医療機関のうち約300箇所の医療機関が病原体定点に指定され,「感染性胃腸炎」の患者から採取された検体を地方衛生研究所(地衛研)に送付し,病原体の検出を行う病原体サーベイランスが実施されてきた。このサーベイランスでは,わが国における感染性胃腸炎の原因としてロタウイルスはノロウイルスについで多く,胃腸炎の流行は毎年1~6月にかけてみられることが明らかにされている(図1)7)
    ロタウイルスワクチンが導入後の2013年第42週(10月14~20日)からは,全国約500の基幹定点から,感染性胃腸炎のうち病原体がロタウイルスであることが確定した患者数の報告が,ロタウイルス胃腸炎患者サーベイランスとして開始されている。このロタウイルス胃腸炎患者サーベイランスでは,下痢,嘔吐といった典型的な臨床症状に加えて,迅速診断を含む便検体での病原体の確認をもって報告することとなっている。本サーベイランスによれば,2013年第42週(10月14~20日)から2015年第20週(5月11~17日)までにロタウイルス胃腸炎として基幹定点から届けられた累積患者報告数は7436で,男性4017名,女性3419名と男性がやや多く,年齢中央値は2歳(0~98歳)で,5歳未満の報告が83.7%を占めている8)。また流行のピークは3~5月にあることが確認されている8)
    以上のように,ロタウイルス胃腸炎は,わが国においても5歳未満の小児の間で毎年流行がみられ,入院する頻度がきわめて高い疾患であることは明らかである。

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