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松本良順(9)[連載小説「群星光芒」293]

No.4882 (2017年11月18日発行) P.70

篠田達明

登録日: 2017-11-18

最終更新日: 2017-11-14

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  • 会津藩医の南部精一郎に案内されて城下の会津藩保養所に旅装を解いた。

    ひと風呂浴びたあと大広間で宴会をひらいた。そこへ芸妓もやってきてドンチャン騒ぎがはじまった。ヘベレケになるまで酒を呑み、声を嗄らして戯れ唄をうたった。

    大広間に折り重なるように寝入った翌朝、一同は二日酔いの頭を冷やしてから羽織袴に身を包み、登城の支度を整えた。 

    会津鶴ケ城は戦国期の蒲生氏郷が築いた巨大な城郭である。

    切妻破風造りの屋根をもつ5層の天守閣のふもとに豪壮な本丸御殿が建ち並び、これを囲んで二の丸、三の丸、北出丸、西出丸と全長1里半におよぶ総構えがある。外堀には16の郭門を備え、出入りをきびしく監視していた。

    南部に先導されて門人たちと奥御殿に上り、久しぶりに藩主松平容保侯と再会した。

    「中将様にはお変わりもなく恐悦至極に存じます」

    わしがそう挨拶すると容保侯は、

    「松本良順法眼にはるばる会津まで駆けつけられ、まことに御足労に存ずる。貴殿らの義俠心には感謝おくあたわざるを得ぬ」

    といささか悲壮な表情で応えた。

    「中将様には全国30余藩10万騎の西軍を相手に古今未曾有の決戦をなさろうとしておられます。手前共もどうして与力せずにいられましょうか」

    わしは力をこめて言上した。

    「よくぞ申された。貴殿にはわが藩校日新館を病院に用い存分に腕をふるわれよ」

    容保侯は立ちあがり、手ずから御酒を注いで回った。

    謁見を終えたのち藩祖保科正之公が創設された日新館へ向かった。

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