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(1)成人と小児におけるワクチン選定法と国内の課題 [特集:渡航者ワクチンの現状と課題]

No.4789 (2016年02月06日発行) P.20

松本多絵 (東京山手メディカルセンター小児科,THE KING CLINIC非常勤小児科医)

近 利雄 (THE KING CLINIC院長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2018-06-21

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  • 渡航者の年齢,基礎疾患,渡航目的,時期,行動パターンなど,渡航者個々人に対するリスクアセスメントが第一歩である

    ワクチンで防げない疾患について,その土地ではどんな感染症に気をつけるべきか,感染経路,そしてどのように防ぐのかなど,ワクチン以外の説明こそが重要である

    多岐にわたるワクチンの特徴を理解した上で,推奨ワクチンは,渡航先の定期接種などの接種表を参照しつつ,渡航者個々人の行動に合わせて決定していく

    渡航者個々人の旅行スタイルに合わせて,罹患リスクの大きさと,実際接種するかどうかを十分に相談する

    1. 渡航外来(トラベルクリニック)とは─業務の実際と今後の課題

    トラベルクリニックとは,渡航医学を提供する医療機関や部門をいう。渡航医学は,医療のほぼ全領域にわたり,かつ,国際保健,医療経済,国際政治などにもまたがる。つまり,旅行や留学だけでなく,途上国援助,学術調査など様々な形での人の移動,特に欧米諸国では移住者,難民などの移動も関わる。このことからもわかるように,ワクチン接種業務はトラベルクリニックの業務のほんの一部にすぎない。
    これから渡航する受診者に対しては,ワクチン接種以外に,ワクチンで防げない感染症の対策や健康管理法のコンサルトを行い,理解してもらう必要がある。渡航する地域が同じであっても行く時期や年代によって罹患しうる疾病は変わってくるため,個別の相談が肝要だ。トラベルクリニックには,海外で遭遇しうる健康被害をコントロールする,というニーズが強いため,ワクチンではなく渡航外来の中核となるリスクアセスメントやコミュニケーションに重点を置くことこそがその真髄である。リスボン宣言の通り「最善の利益」1)2)を渡航者は受診時に得る権利があり,国内のみのワクチン情報に固執して,在庫の有無などでワクチン接種に妥協があってはならない。
    渡航者,帯同者が,「いつ」「どこで」「何をするか」が鍵となる。これを聴取して,個々人に適切な医療情報,健康被害対策やワクチンをカスタマイズできることが,トラベルクリニックの意義である。これが困難ならば渡航者の不利益になるため,渡航医学を提供できるトラベルクリニックと速やかに連携をとることが賢明だと既に報告されている(図1)3)
    感染症の媒介動物の行動範囲や時間帯,習性,文化風俗,感染症の流行地域やヒトの移動を含む「地理」以外も熟知しておきたい。たとえば,いわゆる風土病だけが重要なのではなく,その時期の渡航先の麻疹の流行や,性的活動性の高い年齢層であれば,性病も含めた知識や防御法の教育さえ渡航医学の網羅する範囲となる。
    狭い意味での渡航「ワクチン」外来を脱し,渡航者を,また渡航先の公衆衛生や文化をも守る,広い意味での渡航外来運営が広がっていくことを願う。

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