去る2017年9月16~21日に京都で第23回世界神経学会議を開催し、121カ国・地域から8641名の参加者を得て歴史に残る大盛会となった。その折に大会長には15分間の割り当てがあり、私はアジア・オセアニアの神経学と4次元(4D)神経学について講演した。前者は、文字通り同地域の神経学と神経内科診療の現状とその向上のために、日本神経学会とその年次学術大会を国際化して活用することが効果的である、と訴えた。ここでは4D神経学を説明したい。
4Dは4 Dimensional Neurologyの略で、時間の要素を加味した神経学のことである。この発想は2010年に遡る。
当時、文部科学省の脳科学戦略推進プログラムの課題E「生涯健康脳」に採択され研究を開始した。これは、小児あるいは胎児から成人期を経て老年期に至るまでの、生涯にわたる脳の健康が豊かな生活の礎であるとの理解から、ある横断面のみではなく時間軸を重視して、生まれてから死ぬまでの脳の健康を目標としている。また、それぞれの個体がその設計図として持って生まれた遺伝要因と後天的・獲得的な環境要因との相互作用から健康状態も病的状態も生まれてくる、という考え方である。
たとえば、生後間もない時期の母子分離は過食から肥満をきたし、うつ病になりやすくなる。肥満状態もうつ病も認知症のリスクファクターであり、これらを総合的にとらえて対処することで、たとえば、うつ病や認知症を効果的に減らすことが可能となる。これは、認知症の代表的原因疾患であるアルツハイマー病についてその治験が悉く失敗したことから、発症の30年以上も前から始まっている病変の進行について、発症前の適切な時期に介入することで発症を未然に防ぐ、という先制医療や予防医療の発想にも連なっている。その意味で現在、高齢化が声高に叫ばれているが、老年期のみならず小児・周産期医療との連携が非常に大切である。
具体的には、あらゆる疾患について必ず時間軸を意識した診療を行うとともに、多くのことがまだ疫学的にしかわかっていない時間軸について、その分子的背景を明らかにしていく努力が重要と考える。これからも4D神経学とその重要性の周知と啓発に努めてゆきたい。