食物アレルギー(FA)は,経口摂取により生じると考えられてきたが,近年,経皮感作の関与が明らかになった
小児FAの発症機序として,食物抗原感作はバリア機能が障害された湿疹皮膚からの経皮感作によるもので,経口摂取は寛容誘導に働くとする新たな説(二重抗原曝露仮説)が提唱された
皮膚バリアを司るフィラグリンの遺伝子変異は,アトピー性皮膚炎(AD)の感受性遺伝子であるとともに,FAや喘息などの発症リスクになる可能性が示唆されている
皮膚バリア障害はTh2タイプのアレルギー応答を誘導し,また反対にTh2環境下の皮膚では,皮膚バリア機能が障害され,互いに悪循環をつくり出す
ハイリスク児に対する生後早期からの保湿励行は,ADの発症を約30%低下させたが,感作予防の効果は十分ではなかった
FAの発症予防として海外ではハイリスク児への予防的除去が推奨されていたが,最近のピーナッツアレルギーの研究では,摂取開始時期を遅らせるより,むしろ通常の離乳時期に合わせて経口摂取を勧めるほうがよいとの結果が報告され,FA発症予防の考え方は刷新されつつある
食物アレルギー(food allergy:FA)は,従来,腸管感作により発症すると考えられてきた。しかし,近年,経皮感作の重要性が明らかになり,FAの発症機序に関する概念が一新されつつある。FAは乳児期に最も多く罹患し(約10%),その多くがアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)を合併する1)2)。特にADの発症が乳児期早期で,かつ重症であるほど,FAを合併しやすいことが以前から知られていたが,両者をつなぐ病態の解明は容易ではなかった。
「FAは経口摂取して発症する」との前提に立ち,米国小児科学会では2000年以降,アレルギー疾患を持つ両親から生まれたハイリスク児に対して,ピーナッツや鶏卵を含む数種類の食物を,妊娠・授乳中,および乳児期~幼児期にわたり除去するように推奨してきた。しかし,その予防効果を検証するために複数の疫学調査が行われたが,ことごとく否定的な結果であった。
一方で,経皮感作という新たなリスクが注目されるようになる。2003年,英国の小児科医Lackら3)はコホート研究を通して,湿疹に対して行われた,ピーナッツオイル含有製品を使ったスキンケアがピーナッツアレルギーのリスクになることを見出した。2006年にフィラグリン機能喪失型遺伝子変異がADやアレルギーマーチの発症に関与することが報告され4),皮膚バリアとアレルギー疾患の関係を支持するエビデンスが蓄積されたことを受けて,2008年,Lack 5)は二重抗原曝露仮説(dual allergen exposure hypothesis)という斬新な仮説を提唱した(図1)。すなわち,経口曝露は,本来あるべき免疫寛容を誘導するのであって,アレルギー感作は経皮曝露による影響が大きいと説いたのである。確かに,ピーナッツアレルギーの研究では,食物制限を推奨した米国や英国よりも,制限せずに乳児期に摂取させていたフィリピンやイスラエルのほうが発症率は低かった5) 。また,患児自身のピーナッツ摂取量よりも,患児の周囲で家族がたくさんピーナッツを食べることのほうがリスクになるとの報告もあり,食物抗原が,環境抗原として感作されうることが指摘された6)。
その頃,日本では茶のしずく石鹸という小麦成分(加水分解小麦)を含有する石鹸の使用者に小麦アレルギーが発症し社会問題になっていた7)。この事例は,経皮曝露がFAを誘導することを臨床的に初めて証明した事例であり,我々臨床家を驚かせた。ただ,このような加工処理された食物成分でなくても,一定の条件がそろえば経皮感作によるFAは発症することもわかってきた8) 。その条件とは,表皮バリアの障害下に,食物抗原に繰り返し曝露される状況であり,小児ADに合併するFAにとどまらず,主婦や調理師のように手荒れした状態で食品を素手で調理する場合(職業性)や,食物成分を含有したスキンケア製品で美容的な施術をする場合(美容性)である8)~10)。
経皮感作によるFAに関するエビデンスが蓄積されつつある中,現在,スキンケアによるFAの発症予防効果への期待が高まっている。
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