「感冒に抗菌薬は無効である」と頭ではわかっていても,「細菌の二次感染が怖いから」「ウイルス感染だと確実には言えないから」など,様々な理由で実際には感冒に抗菌薬が処方されてきた。「感冒に抗菌薬を処方するな,と国がお墨付きをくれたら処方しない」と言う医師もいた。
薬剤耐性菌による感染症は世界的な問題になっており,このまま何の手も打たなければ2050年には年間1000万人が薬剤耐性菌感染症で死亡する,という試算もある。このような背景のもと,16年4月にわが国で初めての「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が発表され,17年6月に待望の「国が出した」抗菌薬の手引きが出された1)。
この手引きは上気道感染症と急性下痢症を扱っている。感冒は「鼻症状,咽頭症状,下気道症状の3系統の症状が同時に,同程度に存在する病態」と定義され,「感冒に対しては,抗菌薬投与を行わないことを推奨する」と明記されている。また,急性下痢症に対しても「まずは水分摂取を励行した上で,基本的には対症療法のみ行うことを推奨する」と明記された。そのほかに抗菌薬が必要な病態や,その際に投与すべき抗菌薬なども記載されている。
自分の親に,未来の自分に,そして未来の子どもたちに有効な抗菌薬を残せるか否かは,「いま」の実地医家の診療にかかっている。
【文献】
1) 厚生労働省:抗微生物薬適正使用の手引き. 第1版. 2017. [http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisaku jouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000166612.pdf]
【解説】
笠原 敬 奈良県立医科大学感染症センター准教授