(和歌山県 I)
軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)の行動・心理症状の中では,抑うつ,睡眠障害,アパシーの頻度が高いのですが,妄想もみられることがあります1)。MCIでは11.9%,アルツハイマー型認知症では36.6%の患者に妄想がみられたという報告もあります2)。そのため,アルツハイマー型認知症の発症以前に妄想を認めることは決してめずらしくはありません。
しかしながら,妄想の内容にも注意が必要です。一般的に,アルツハイマー型認知症の妄想は,物盗られ妄想や被害妄想が主体であり,今回のように「うちの先祖は弘法大師だ」といった誇大妄想が疑われるような症例は典型的ではありません3)。
一方で,レビー小体型認知症の妄想も,アルツハイマー型認知症と同様に物盗られ妄想や被害妄想の頻度が高いのですが3),時に精神病に近い妄想を認めることがあります。本症例のように,経過中に幻覚(特に幻視)を認めるような場合は,レビー小体型認知症が併存する場合も少なくはなく,引き続き慎重に経過をみる必要があるでしょう4)。
また,誇大妄想は,認知症性疾患よりも統合失調症や双極性障害の躁状態などの精神疾患でみられることが多く,診断には発症以前の成育歴・現病歴を聴取し,精神疾患の鑑別を行うことも大切です。
【文献】
1) Köhler CA,et al:Curr Alzheimer Res. 2016;13 (10):1066-82.
2) Van der Mussele S,et al:Aging Ment Health. 2015;19(9):818-28.
3) Cipriani G,et al:Geriatr Gerontol Int. 2014;14 (1):32-9.
4) Chiu PY,et al:PLoS One. 2017;12(10): e0186886.
【回答者】
松永慎史 藤田保健衛生大学医学部認知症・高齢診療科 講師
武地 一 藤田保健衛生大学医学部認知症・高齢診療科 教授