No.4902 (2018年04月07日発行) P.24
二木 立 (日本福祉大学相談役・大学院特別任用教授)
登録日: 2018-04-09
最終更新日: 2018-04-05
私は、昨年3月出版の『地域包括ケアと福祉改革』(勁草書房)序章の「おわりに─今後の医療・社会保障の財源についての私の価値判断」の冒頭で、次のように述べました。「私は、現在の医療・社会保障費の厳しい抑制が続けられた場合には、社会的格差がさらに拡大し、国民統合が弱まる危険があると危惧しており、それを予防するためにも、『社会保障の機能強化』が必要だと考えています」(11頁)。ただし、同書では財源についてはごく簡単にしか述べなかったので、本稿でより詳しく述べます。
その前に、私が強調したいことは、国民皆保険制度は現在では、医療(保障)制度の枠を超えて、日本社会の「安定性・統合性」を維持するための最後の砦になっていることです。逆に言えば、過度な医療費抑制政策により、国民皆保険制度の機能低下・機能不全が生じると、日本社会の分断が一気に進む危険があります。この点で、第2期安倍晋三内閣の下で、社会保障給付費水準(対GDP比)が3年連続(2013~2015年度)低下していることは危険信号と言えます。
ここで強調したいことは、国民皆保険制度を維持することは国民すべてが公的医療保険制度に加入するだけでは不十分であり、医療保険が給付する医療サービスが「最低水準」ではなく、「必要かつ十分な」「最適水準」であることです。
このことは、単なる「あるべき論」ではなく、歴代政府も認めています。この点を明示した法律はありませんが、厳しい医療費抑制政策を断行した小泉純一郎内閣が2003年の閣議決定「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針について」で、以下のように明示しました。「診療報酬体系については、少子高齢化の進展や疾病構造の変化、医療技術の進歩等を踏まえ、社会保障として必要かつ十分な医療を確保しつつ、患者の視点から質が高く最適の医療が効率的に提供されるよう、必要な見直しを進める」。「必要かつ十分な医療」という表現はそれ以前の閣議決定でも用いられていましたが、「最適の医療」という表現が用いられたのはこれが初めてです。それに対して、医療分野への全面的市場原理導入を提唱する人々は、医療保障は「最低保障」に限定すべきと主張しています(『医療改革と病院』勁草書房, 2004, 14-17頁)。