わが国では高齢化が社会問題となっていますが、さらに高齢化は進み、2050年には65歳以上の人が人口の39.6%になり、15歳から64歳までの生産年齢の割合は51.8%に下がると推計されています。したがって、わが国の社会を生産年齢人口だけで支えることは困難であり、高齢者も可能な限り社会に参加していただかなければなりません。高齢者が自動車を運転することは、単なる移動手段としてのみならず、運送業界をはじめとした経済における大きな役割をも果たしています。
さて、近年、交通事故死者数が減少していますが、すべての交通事故死者数の減少割合に比べて、高齢者の死者数の減少割合が少ないのです。死者に占める65歳以上の割合が増加し、2005年に44.3%であったのが、2016年には54.8%になりました。高齢化社会において、より多くの高齢者が交通社会に参加することから、当然の結果かもしれません。特に歩行中の死者では、60歳以上が占める割合が78.8%、自転車乗車中も73.7%と極めて高いのです。そして、多くが自宅近くで事故に遭遇していました。高齢の患者さんには、「近所でも交通事故に気を付けて」との声掛けが必要です。
交通事故では、関与した車両の運転者や歩行者のうち、過失が重い者、また、同程度の過失であれば人身損傷程度が軽い者を「第1当事者」と呼びます。そこで、原付以上運転者が第1当事者となった死亡事故について、年齢群別に発生率を調べました。
全年齢群の平均は運転免許保有者10万人当たり4.2件でしたが、16~19歳では13.5と3倍以上でした。そして、75~79歳で6.7、80~84歳で10.6、85歳以上で16.7と極めて高くなりました。運転免許取得後間もない若年ドライバーが死亡事故を起こしやすいことは周知の通りですが、高齢運転者になるほど死亡事故を起こしやすいことも事実でした。
事故を起こした高齢運転者へのインタビューによると、多くの人は、「特に気にしていないところで事故が起きた」と答えていたそうです。その背景には、長年の運転経験で蓄積された無意識の習慣があります。そして、本人が今まで経験したことがない危険な事態が発生すると、慌てやパニック状態となり、適切な危険回避行動をとれずに事故に至ります。
また、高齢者に多いと考えられているブレーキとアクセルの踏み間違え事故ですが、前記のように慌てやパニックによってペダルを正確に踏み込む挙動に悪影響が生じ、結果的に急前進や急後退につながってしまうのです。
さらに、パーキングチケットを取る時など、同時に何らかのタスクを行う際に、身体の位置が変わると、その際にブレーキにかけている足の位置がずれ、結果的にブレーキとアクセルを踏み間違えます。これも、加齢による身体感覚やバランス感覚の低下に起因しています。
よくある事故を起こさないように、患者さんに自動車運転の注意を行ってください。