肝切除術は「肋骨の籠の中に守られた肝臓を切除する」手術手技であり,一般的手術侵襲と切除後残肝容量低下侵襲に加え,特に慢性肝障害併存肝細胞癌の開腹肝切除では「籠を開いて肝臓を取り出すことで肝周囲環境(側副血行路・リンパ行路)を破壊する侵襲」が加わる。
腹腔鏡下肝切除は1990年代初頭の報告が嚆矢だが1),その発展過程で,腹腔鏡下では開腹と違い「腹腔鏡と鉗子が尾側方向から籠の中に直接侵入して切除を行う」ことが認識された。これは新たな概念「腹腔鏡下肝切除におけるcaudal approach」として提示され2),障害肝切除時には肝周囲環境破壊侵襲を低減させ,術後腹水貯留と肝不全の発症を抑制させる優位性があることが報告された3)。
慢性肝障害併存肝細胞癌症例に対する肝切除適応拡大の可能性が議論されている。また,異時性多中心性発がんに対する繰り返し切除の際に,癒着が少ないことと同時に,腹腔鏡と鉗子を最小限のworking spaceに侵入させ切除が行えるため,慢性肝障害併存肝細胞癌症例の治療体系を改変させていく可能性を期待させる。
【文献】
1) Morise Z, et al:World J Gastroenterol. 2017;23 (20):3581-8.
2) Tomishige H, et al:World J Gastrointest Surg. 2013;5(6):173-7.
3) Morise Z, et al:J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2015;22(5):342-52.
【解説】
守瀬善一*1,浅野之夫*2,堀口明彦*3 *1藤田保健衛生大学総合消化器外科教授 *2藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院消化器外科講師 *3藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院消化器外科教授