世に超音波本はたくさんあれど,本書はぜひ一読しておきたい一冊と言える。とにかく実用的,深い,かゆいところに手が届くの三拍子揃った,エビデンスが満載の一冊だ。文献が最新であることはその本の信頼性を表しており,決して検診のためのそんじょそこらの超音波本ではなく救急現場で役に立つ仕様になっている。
冷蔵庫を使うのにどうして冷えるのかなんて知る必要がない。超音波の基礎知識なんて音の本質を語る項目から始まると「マジ,ドン引きなんですけど…」って感じになってしまうが,それはないからご安心を。これは執筆者が本当の臨床家である所以と言える。文献的考察を加えて信憑性を持たせる一方,超音波が役に立たないところはさっさと次のステップに進むように推奨しているのも潔い。たかが超音波,されど超音波なのだ。
研修医は「これだけできれば大丈夫」の項目を達成できるようにすべし。
特筆すべきは,症候からのアプローチ。患者さんは「どの臓器が悪いんです」なんて言うはずもなく,症状を訴えてくる。ショックこそポイントを絞って素早く超音波を駆使できるようになるべし。胸痛で心臓しか見ないんじゃ,大動脈解離や肺塞栓,気胸が置いてきぼりを食らってしまう。呼吸困難で超音波を使えると一皮脱皮できる。胸部X線で肺水腫を探すなんて「あの雲ってソフトクリームに見えない?」というくらいみんなの同意を得難い(感度低い)けど,超音波で肺のB-lineを探せばぐっと感度・特異度ともに高くなる。心臓が動いているからいいやなんて言ってると,拡張障害型心不全(約40%)を簡単に見逃してしまうんだから。
腕に覚えのある後期研修医以上は本書を熟読すべし。随所にTipsがちりばめられている。骨折診断,神経ブロックなんでもござれ。
本書はあなたの期待を裏切らない一冊になることは間違いないですよ。