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Ⅰ 総 論  A いま伝えたいこと

登録日:
2020-02-14
最終更新日:
2020-02-12

前著『コウノメソッドでみるMCI(軽度認知障害)』から,MCIを考えるにあたり,必然的に発達障害が加わり,うつ病圏への考察も増しました。
その後MCIを探求する中で,MCIから認知症に移行する経過をたどるうちに,進行しない認知症の方がいることがわかりました。世の中がアルツハイマー型認知症(ATD)一色の中で異彩を放つ患者群の診療を臨床医として正しく行うために何が必要なのか,いま考えていることを最初に申し上げたいと思います。

1 こころを治す

心(こころ)は脳の活動によって生じると考えられています。目,耳,皮膚などから受け取った情報は,電気信号として神経細胞(ニューロン)内を伝わり,神経伝達物質という化学信号に変換されることで伝えられます。
そのようにして伝えられた情報が脳の中に貯蔵された記憶と組み合わさって,精神活動(心)が生まれるとされています1)。筆者の理解では,情動と関係しない記憶は海馬,情動と関係する記憶は扁桃体が担当しています。
発達障害の方は,生まれてから1歳までの間に,脆弱性をもったまま扁桃体が形成されてゆきます。そのため,人生の様々な場面で精神的ストレスがかかると,他の遺伝子変異との相互作用が起こり精神病を形成してゆくのではないかと思っています。発達障害の方は,前頭葉の神経伝達物質(ノルアドレナリン,ドパミン)の働きも不調です。セロトニンが低下すると情動調整ができなくなり,過度に悲しんだり怒ったりし,ドパミンが過剰になると幻聴が出て強い攻撃性を起こすのです。
50歳以降に海馬に障害が起きるのが認知症です。アセチルコリンが低下した方は記憶が悪い認知症,ドパミンが欠乏している方は幻覚が出たり歩行しにくかったりという認知症になります。
いま筆者が神経伝達物質の障害で説明した病気というのは,一般に注意欠如多動性障害,双極性障害,統合失調症,アルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症と言われているのだろうけれども,それは便宜上つけられた病名であって,実際にはグレーだとか混合だとか,どちらでもない方が大勢います。ときどき筆者は叫びたくなることがあります。「あなたの診断はわからない。しかし治す方法はわかっています」と。しかしそれでは,診療報酬の審査は通りません。「病名をつける作業」はいつもむなしいものです。
高齢者の診療では,中国医学のように,病名に固執するよりも病態に対して処方してゆくなら楽ですしうまくいきます。まずは高齢者は対症が合っているという現実に沿って処方するのがよいのではないでしょうか。


高齢者では用量も大事です。“認知症患者のうつ状態”とは何でしょう? 病気が2つ合併しているのでしょうか? それを知るために脳血流シンチグラフィーをやるべきでしょうか?高齢者は,生理的に神経伝達物質が低下しているので特に話がややこしくなります。若い患者さんほど症状は激しくないけれど,分類すれば「うつ病」と言われてしまいます。しかし,高齢者専用の薬はないので,そこに抗うつ薬を「常用量」処方すると過剰摂取になります。
認知症は,記憶を改善するのが本質だと生化学者は思ってしまいがちのようですが,こころも大事です。アセチルコリンを賦活するのはよいけれど,セロトニンを不安定にするような用量を投与してはなりません。生体内でのバランスに配慮するのが臨床医の仕事ではないでしょうか。
筆者は,レビー小体型認知症(DLB)を制する者は認知症を制することができると考えています。いろいろな神経伝達物質の働きが障害されていて,こころまでダメージを受けているのがDLBです。最適な薬の組み合わせと用量設定をしない限り,最も予後の悪い認知症になってしまいます。
コウノメソッド(筆者が考案した認知症薬物療法マニュアル)では,こころを最優先してケアするように考えています。“記憶はよいけれど怒りっぽい患者”をつくることをよしとはしません。処方の微調整ができないなら,保険薬を全部やめて,調整系のサプリメントを飲んで頂くほうがまだましです。
認知症と精神病を合併した患者さんはいますか? PETで精神病の合併がわかるでしょうか? 軽度認知障害と言いますが,その本態は一体何でしょうか。
いくら記憶がよくなっても,怒りっぽくなってしまったり,感情が不安定になってしまっては,患者さん本人やご家族の幸せにつながらないのではないでしょうか。
記憶も治したいし,こころも救ってあげたい。そんな筆者の思いから本書が始まります。

文 献
1) 野口哲典:マンガでわかる神経伝達物質の働き. SBクリエイテイブ, 2011.

2 物忘れは認知症,という思いをいったん断ち切る

本書は,内容にかんがみて,タイトルにMCIと書きたかったのですが,プライマリケア医が書籍検索のときに探しやすくなるように認知症と入れました。
MCIという「あまりにも漠然とした」用語は,認知症しか知らない研究者の間で,発病予防という魅力的な医療を考えるときにぜひとも必要な「認知症前駆状態」のつもりでつくられたはずなのですが,その後パーキンソン病にもMCIがあるなどという拡大解釈が広がってきました。
筆者は,さらにそれ(対象疾患)を拡大する必要があると思い,本書を書くに至りました。
物忘れを主訴とする患者さんをどう診察するか─。鑑別診断の決め手は高度医療機器なのだから,という話で埋め尽くされてはいけません。ほとんどの臨床医は高度医療機器なしで現場を切り盛りしています。裸一貫で何ができるかという話しか筆者は書きません。
診断という作業の主役はあくまでも医師です。医療の基本に立ち戻って,ちゃんと問診することで初期のボタンの掛け違いを防ぐことが大事です。後にも先にも,結局問診なのです。問診というのは,医師に豊富な知識があってのものです。やみくもな問診ではなく,的を射た問診です。
認知症と非認知症を間違えるわけがないと思う方もいらっしゃるかもしれません。筆者がそうだったから,よくわかります。勉強不足は本当に罪深いことで,信頼してくれている患者さんを裏切ることになります。加えて,高齢者の理解は一筋縄にはいきません。

3 医師は焦るなかれ。良性認知症というものがある

現代は,高齢者の栄養状態もよく,運動もよく奨励され,メタボリックシンドロームへの対応法も国民がよく理解するようになりました。ATDのリスクファクターとして脳萎縮度の進行に影響を及ぼすアポリポ蛋白E4が有名ですが,一方で脳萎縮が強くてもなかなか病状が進行しない高齢者もいます。
追加試験の結果が思わしくなく,新薬開発から手を引いた企業の中には,MCIに対し,コンバートしないように抗認知症薬(中核薬)を早めに投与しようという戦略や,アミロイドを消そうという戦略に着手するところもありました。
一方,VDや血管因子を持つATD,糖尿病性認知症のMCI(発病準備状態)なら生活習慣の改善はコンバート阻止に効果がありそうです。
逆に,MCIからリバート(正常範囲に戻ること)する理由を説明できる研究者はいるでしょうか。深刻ではない話なので,リバートした理由を知る必要はないのでしょうか。コグニサイズ(体を動かし頭を使う)でリバートしたという報告はあるものの,ATD病変を持つMCIが本当に正常域に戻るのでしょうか。
2019年5月に厚労省が70代の認知症の人の割合を2025年までに6%に減らすとの数値目標を大綱に盛り込もうと公表したところ,当事者らから「『認知症になるのは予防の努力が足りないからだ』との偏見を生みかねない」という反発が起きました。加えて,ATDの予防・治療の提言として米国で大きな話題になったReCODE法で示された36の注意事項をすべて守るなんて不可能です。
ただ,ここで説明されるように中核薬による治療以外で生活の見直しをするという考えは,国民が支持するところでしょう。たとえば,筆者は糖質制限食に注目していますが,これを国内の2型糖尿病の方が全員実行したら,すばらしい医療費の削減を起こすはずです。

当院は開院して10年になります。その間長く通院してくれている高齢者の中で,かなりの方が改訂長谷川式スケール(HDS-R)スコアがまったく落ちないことに気づきました。多くの臨床論文が示すようなATDの自然歴を考えると,自分が処方してきたドネペジルがずっと効いているのだなどとは考えません。しかし,彼らの海馬はけっこう萎縮しています。
これが,日本人研究者が発見した神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)です。このSD-NFTには,抗認知症薬の少なくとも最大用量を処方するということは,してはいけないと思われます。まったく処方しなくても,さほど進行しません。医師の関与(おせっかい)で,少しでも副作用(易怒,食欲不振など)が起きるなら,大変な迷惑です。
「初診時に海馬萎縮の強い高齢者がATDかSD-NFTかを鑑別診断できる」─これが実現できるよう,本書を書く前にリサーチしてみました。

4 現場では,精密検査より患者の数─1,000例の患者が示すもの

筆者は,4年前から患者経験をデータ(数字)で残すようにしました。性別,病名(途中で変更することもけっこうあります),初診時データ(年齢,海馬萎縮度,HDS-Rスコア)。
さらに続けて通院して頂いた患者さんには2回目以降のHDS-Rスコアも追記し,それによってスコアの年間あたりの変化量(ar),内服していた中核薬(抗認知症薬4成分),フェルラ酸含有サプリメント(抗酸化作用)の使用の有無を入力しました。
途中から時計描画テスト(CDT)も精力的に行うようになり,CDスコア(9点満点),積み木テスト(The Building Block Test・Nagoya:BBT)におけるBBスコア(9点満点)も追加しています。異常な時計描画は病型鑑別の参考になる場合があります(たとえば,意識障害系描画はDLB,NPH。早とちり描画はADHD)。
これら動作性知能検査が今回,重要な指標になりました。先に結論を言うと,BBTができる患者はHDS-Rスコアが低くても自宅で生活できる方たち(SD-NFTなど)なのだと気づかされました。
この作業で非常に大事だったことは,非認知症もちゃんと記録するということです。このデータによって筆者はMCIの深い探求が可能になったのです。このデータが,のちに「物忘れ=認知症」ではない!ということに気づかせてくれました。認知症の医学書を書く準備なので非認知症のデータは不要,と思った時点で本書は生まれなかったでしょう。筆者は一度研修医に戻ったつもりになろうと決意しました。認知症専門医という肩書きを外さないと井戸の外に蛙は飛び出せないのです。
患者さんのプライドに配慮したいので,筆者はMMSE(Mini-Mental State Examination)は行いませんし,多忙の中ADASも行いません。認知症専門医のわりに,驚くほど検査をしないと指摘されるかもしれません。ただ患者さんが改善すればよいと思っています。
このポリシーは,プライマリケア医(ほとんどが認知症以外の患者で,認知症も診療したいと思っている多忙な開業医)にはマッチすると思います。画像機器も16列マルチスライスCTだけです。
DLBとPSPの鑑別にMIBG心筋シンチグラフィーを実施したいと思う患者さんはたまにはいますし,NPH患者さんのATD合併を確定するために髄液アミロイド・タウの値を知りたいと思うことはあります。
ただ,アミロイドPETやイオフルパン(123I)(ダットスキャン®)をやって下さいなどと専門施設に依頼したいと思ったことはありません。アミロイド陽性という結果が出た場合に,そのアミロイドのせいで現在の認知機能低下が起きたという確証はなく,DLBかもしれないし,加齢による蓄積かもしれません。よく考えると現在の医療レベルでは患者を不安にさせるだけの検査かもしれないと感じています。
ReCODE法1)では,ATDの発病原因を3型に分けており,1,2型はApoE4に関連,3型はApoE3に関連するとしていますので,生活指導のためにはApoEアイソフォームを自費(患者負担は約2万円)で調べて頂くのも有用かもしれません(SD-NFTはApoE2が多い)。
松下正明先生(ATDとVDの臨床鑑別法を提唱した精神科医)が以前学会でシンポジストに「ちょっと検査をやりすぎではないですか」と苦言を呈されていたことがあります2)。責任疾患の重複が臨床検査で感じられた患者に,あえて機能画像検査等を追加するのは考えものです。

文 献
1) デール・ブレデセン, 著, 白澤卓二, 監, 山口 茜, 訳:アルツハイマー病 真実と終焉. ソシム, 2018.
2) 松下正明:その症例にこの検査は実施しなくてもよいのではないですか.老年精神医学雑誌. 2018;29(増刊-1):146-7.

5 「職人」たる臨床医のやるべきこと

医療の基本は問診です。ご家族に要点をついた問診をしているケアマネジャーや施設長は,当院に初診患者を連れてきたときに,筆者の考える診断結果を聞くと「やはりそうでしたか」と言います。彼らは,既に自分なりに利用者の診断をしてから来るのです。経験の浅い医師よりよほど優秀だと言えます。
彼らが見落とす病気は,NPHと脳腫瘍くらいではないかと思います。画像機器がないのでそれらを見落とすのは当たり前です。そして勉強熱心なご家族だと,筆者がATDだと説明したあとに「レビーではないのですか」と確認することがよくあり,ドキッとすることがあります。そんなとき,絶対にDLBではないと言い切れるのかと自問します。
このように,インターネット普及の現代において,患者さんやご家族,スタッフの知識は飛躍的に増えており,医師は鑑別診断において常に謙虚に,断言した言い方は初診日にはしないほうがよいでしょう。
毎回毎回,ちゃんと肘の筋固縮の有無を診て,歩き方を観察し,HDS-Rの最中の態度,顔つき,失点パターンからその患者は何者であるかを知ることが大事であり,そこから読み取れるものは画像にまさるものです。
画像に頼った瞬間に医師は診察や問診に手抜きをして,思考が停止します。大事なのは,間違った処方,患者個々に合わない用量を正し,病状に合わせて処方を変更してゆくことです。

本書では,初期の認知症,MCIへの対応について説明するので,初診時のムンテラとして海馬萎縮の軽い患者さんには,確定的な言い方をしてはいけないということを申し上げたいと思いますし,あまり進行しないSD-NFTは,海馬萎縮がけっこう強いという盲点があります。
MCIの主役はSD-NFTであることを忘れてはなりません。認知症といえばATDの話題ばかりでは,とうていバランスの取れた知識にはなりません。本書で筆者によるSD-NFTの研究結果を示します。
前述の通り,筆者は動作性知能検査を加えはじめて,自宅に残れる患者(いわば“良性”認知症)と施設に入らざるをえない患者(“悪性”認知症)の違いがわかってきました。その際言語性知能(HDS-Rスコア)の絶対値は関係なく,積み木テストが苦手なことが関係します。
つまり,最初からPPAの患者さんであるか脚注1,ATDなどがSD化脚注2して,本人を1人にしておくと事故につながりかねない状態になることが“悪性”です。
また,中核症状(HDS-Rスコア)とは別のところで介護上問題を生じるのがDLBのせん妄,つまり意識障害系患者です。うまく陽性症状(幻視・妄想)を処方で消さないと介護できなくなります。MCI-DLBというのは,REM睡眠行動障害脚注3の発生から長い長い期間を経て発病する場合もあります。その間は,レビー小体病(LBD)という呼び名でもよいでしょう。
DLBとリンクしやすいのが発達障害で,介護抵抗のもとになります。家族からの聞き取りにより,DLBとFTDは精神病関連認知症ATDとVDは純粋認知症というイメージが湧きましたし,それを支持する論文も出ています。前者は,少しセロトニン(調整系神経伝達物質)が不安定かなというイメージで対応すればよいでしょう。
DLBは,パーキンソニズムも加わってくると,DLBのいわば悪魔のトライアングル脚注4にはまり,対症療法で出す処方がことごとくADLを下げ,周辺症状を悪化させます。DLBは,神経内科ではPD関連疾患と思われているでしょうが,精神病関連疾患でもあるのです。臨床医としては 知識と技能の総力戦を強いられる疾患です。
さて,“良性”認知症(緩徐進行型)の代表格SD-NFTの特徴は,HDS-Rスコアが低くても海馬が萎縮していても,ほとんど進行しないということです。周辺症状が少ないため,初診時はHDS-Rスコアがけっこう低いのですが,85歳を超すような高齢でも歩行障害もなく,豊かな会話(思いやりが感じられる)ができ,CDスコアもBBスコアも満点近くをとる人たちです。
この方々に深刻なムンテラをしてはなりませんし,アセチルコリンの過剰な賦活はご法度です。ですから初診時にSD-NFTであることがわかるように研究の積み重ねを行ってきました。 

脚注1:初発症状が失語である患者だけがPPAと診断される。ほとんどの認知症が進行すると失語になるが,それはPPAとは言わない。
脚注2:ATDのSD化:左側頭葉機能が低下して,物事や言葉の意味がわからなくなること。SD-ATDと呼んでいる。
脚注3:REM睡眠行動障害:夜中に無意識な体動や発声が起きる。
脚注4:認知機能対策に過量のドネペジルを処方するとパーキンソニズムが悪化し,パーキンソン病治療薬を出すと薬剤過敏性によって妄想が悪化し,妄想を消すために抗精神病薬を出すと認知機能と歩行機能が悪化する,という悪循環のこと。コウノメソッドではDLBへのドネペジル処方を第一選択とはしていない1)


文 献
1) 河野和彦: レビー小体型認知症──即効治療マニュアル〈改訂版〉. フジメディカル出版, 2014.

6 医学書にあまり書かれていない重要な疾患

認知症の代表と言えばATDです。これはまったく間違いないことで,頻度も多いし,少し複雑な話と言えば血管因子の問題ぐらいです。用量を間違えなければ,普通に中核薬を投与すればよいです。
ただ,かえって介護をしにくくする処方というものはあります。ドネペジルで易怒を起こすのが代表的な副作用です。かつては,増量規定があり現場が非常に困惑したものです。MCI-ATDを見抜く方法は,外見上健康に見えること,HDS-Rで遅延再生が低下すること,CTで海馬萎縮があることなどです。一般に特徴の少ない認知症なので,除外診断(ほかの認知症ではないことを確認して残ったものがATD)をするという話になっています。
あらゆる手を尽くしても急速に進行するのがPPAです。失語系認知症なのですが,言語性知能であるHDS-Rスコアが低下するだけでなく,CDスコアもBBスコアも低下します。「わけのわからない状態」が意識障害なしで進みます。
PPAの中で最も多い意味性認知症(SD)の病理基盤は原則FTDですが,ATDの場合もあって,それをSDと言ってよいか現場が困っています。SDの概念は前方型認知症の分類において発生したものですからATDであってはならないのです。しかし患者の頻度を考慮すると,SD-ATDと言いたい患者さんは大勢います(ATDのSDバリアントという解釈もあります)。
前頭葉だけが萎縮する変性疾患としてPSPがあります。歩行障害の進行は非常に悪性で,HDS-Rスコア,CDスコア,BBスコアともにどんどん低下する患者さんもいます。現在タキシフォリンというロシアのカラマツサプリメントが活性化と歩行に最も期待できるサプリメントだと思います。
最後に,ATDより進行が緩徐なものに,①SD-NFT,②石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC),進行は遅いけれどピック症状で家族が困るものとして③AGDがあります。特に①と③は平均より長生きしたから発病してしまったという程度のもので,基本的にはATDのように大騒ぎする必要はないものです。
3者には中核薬は不要です。AGDにはクロルプロマジンが必要というのがポイントです。医師として機能したいがサプリメントは使わないというのなら,3者にはガランタミン2mg×2くらいの用量にとどめて頂きたいものです。原則としてアセチルコリン賦活は歩行能力を奪います(二次性,加齢性ドパミン欠乏)。

まとめますと,一般の認知症医学書には,失語系認知症PSPSD-NFTの記載がまったく足りていないと思います。そしてMCIとなればなおさらで,ADHDうつ病圏側頭葉てんかんの話をたくさん解説しなければならないでしょう。さらに介護の教科書には「元気すぎる高齢者症候群」として自閉症スペクトラムASD,おおかたアスペルガー症候群:ASを指す)の記載がぜひとも必要です。
ADHDのHDS-Rスコアがぐんぐん上がってゆく様を見ると医者冥利につきます。しかし発達障害の知識がなければ,この患者さんは一生救われないのです。それを考えると恐ろしいです。過去の自分は30年も何をやっていたのかと思います。
そもそも児童精神科でHDS-Rはまずやりません。筆者は認知症圏から精神病圏に領域を広げると同時に発達障害をマスターしたので,ADHDのHDS-Rスコア上昇などという誰も語らなかった現象を示すことができます。ADHDを知り,確かに,これでは記銘できず苦しむであろうとわかりました。
比較的「軽症」の認知症者が生活する名目で始まったグループホームには,非認知症なのに家族が対応できなくなり入所しているというASの高齢者がけっこういます。彼らは発達障害が見逃され「認知症」ということになって,介護保険もその病名で通っています。
HDS-Rスコアが25もあるのになぜ入所しているのか?なぜピック病でもないのにクロルプロマジンが必要なのか?認知症しか知らないと,そういう疑問すら湧かないでしょう。3年前の筆者がそうでした。

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