□Brugada症候群とは,12誘導心電図でV1~V3誘導における特徴的なST上昇を呈し,一部の人が,主として若年~中年男性が夜間に心室細動(Vf)を引き起こして突然死する疾患である1)2)。
□本疾患は遺伝性不整脈疾患であり,これまでに心筋のNaチャネルのαサブユニットをコードするSCN5A遺伝子のほか,L型Caチャネル遺伝子など18種以上の遺伝子変異が同定されている。ただし,原因遺伝子が同定されるのは全体の20~30%にすぎない。
□標準12誘導心電図における日本人のtype1波形の有病率は成人0.15%,小児0.01%程度で,男女比は20:1であり,Vfや失神の既往のない無症候群の年間死亡率は0.5%以下と報告されている。
□日本では特発性心室細動研究会によるJ-IVFSと,厚生労働省の循環器病委託研究の結果が発表され,いずれにおいても無症候群の予後はおおむね良好(死亡率:約0.2%/年)で,失神群が軽度不良(約1%/年),Vf群は死亡率が5~7%/年で予後が不良であった3)4)。この結果は,2010年に報告されたFINGER研究の各群の予後ともほぼ一致しており5),欧米と日本のBrugada症候群は同様の予後を示すことが証明された。
□これまでBrugada症候群の予後不良指標として,Vfの既往や,原因不明の失神の既往,自然発生のtype1心電図,下側壁誘導でのJ波の存在,45歳未満での突然死家族歴,電気生理学的検査でのVf誘発のほかに,欧米ではfragmented QRSや右室心尖部の200msec未満の不応期などが報告されている6)。ただ,この中で突然死家族歴と電気生理学的検査でのVf誘発の意義に関しては評価がわかれる。しかしながら,家族の中に若年,中年で睡眠中に突然死した人が複数名いる場合は,予後不良と考えたほうがよいと思われる。
□電気生理学的検査での誘発法も3連発までを含めると予後に差がないが,1発や2発の心室期外刺激で簡単にVfが誘発された場合は,予後が悪いとの報告がある。
□定義上,Brugada症候群と診断できるのは,J点で2mmを超えるtype1(coved)波形が,自然発生または薬物(Ⅰ群抗不整脈薬)投与後に,高位肋間(第2,3肋間)を含む右前胸部のV1,V2誘導のいずれかで認められる場合に限られ,type2,3(saddleback)波形しか認められない場合は,Brugada症候群とは呼ばず,Brugada様波形例とされる。ただし,この診断は意外に難しい。
□著明なST上昇を伴うcoved波形は正しく診断されやすいが,不完全~完全右脚ブロックをボーダーラインのcoved波形,またはsaddleback波形と誤診する事例は非常に多い。特に,V1,V2誘導のlate Rまたはr'波をJ波と判断してしまうと誤診の確率が高くなる。これを防ぐには心電図の時相を一致させて,V1またはV2誘導のQRS波後半部分と,V5またはV6誘導のQRS終末点を比較する必要がある。すなわちV5,V6誘導の終末時相からV1,V2誘導のQRS終末点(J点)とJ波高を決定し,そのJ波高が2mm以上あるかどうかを確認する必要がある。
□12誘導心電図でBrugada症候群またはBrugada波形が疑われた場合,次に行うべき検査は高位肋間心電図であり,V1~V3誘導を第2肋間,第3肋間で記録するのがよい。ピルシカイニドを用いた薬物負荷心電図は,Brugada症候群の確診をつけたいときに施行する。これらの心電図検査において,高位肋間を含めたいずれかの誘導で,type 1波形が自然発生の状態で認められた例は,それ以外の波形例に比べて予後が不良と報告されている。
□このほかに,基礎疾患の診断目的で心エコー図を施行して差し支えないが,ホルター心電図と同様に,一般に重症度判定や予後予測にはあまり有用でない。それ以外の検査として,トレッドミル運動負荷試験があり,運動終了後の回復期にSTの再上昇が認められる(前に比べ0.5mm以上)例では,そうでない例に比べ,予後が不良と報告されている。
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