□心タンポナーデの病態の本質は,心膜液の貯留により心膜腔の圧が上昇し,心内腔の拡張・血液充満の障害をきたして,心拍出量が低下することである。
□重症例ではショックに陥る。
□本来の心内腔の圧が低いほど相対的に高い心膜腔圧の影響を受けやすいため,病態の進行に伴い,まず(心室)拡張末期から収縮早期における右房の虚脱,ついで拡張早期の右室の虚脱,さらに進行すると左房の虚脱が生じる。
□血液充満の障害が生じる順序から,まず静脈還流の障害とうっ血は右心系で生じ,右房・右室のレベルで肺循環への血流が制限されてしまうため,肺うっ血は生じにくい。
□心タンポナーデに至る心膜液貯留の原因疾患は様々であり,急性心筋梗塞や外傷による心破裂,stanford A型急性大動脈解離などによる心膜腔への出血,悪性腫瘍の心膜転移,ウイルス感染,細菌感染,膠原病,甲状腺機能低下症などが挙げられる。
□原因と心膜液貯留の緩急によるが,心膜腔への出血など急速に心膜液が貯留する場合は比較的少量でショックに陥ることがある一方で,がん性心膜炎などの場合は徐々に心膜液貯留が生じることが多く,心タンポナーデの進行も緩徐であり,多量の心膜液が貯留した後に低心拍出による全身倦怠感,息切れ,右心系のうっ血による浮腫などの症状が少しずつ悪化していく経過をたどる。
□血圧・脈圧の低下,奇脈(吸気時の収縮期血圧低下が顕著となり10mmHg以上低下する状態),頻脈,頸静脈怒張,心音の減弱など,心膜腔圧の上昇に起因する1回拍出量の低下と右房圧・中心静脈圧の上昇を反映した身体所見が認められる。進行するとショックに陥る1)。
□12誘導心電図:貯留した心膜液が多い場合には,低電位を認める。また,心膜腔内で心臓が振り子様の動きを生じ,QRSの振幅が1~数心拍ごとに増加したり減少したりする電気的交互脈が認められることもある。
□胸部単純X線:心陰影の拡大。肺血管陰影は通常増強しない。
□心エコー図:心膜液貯留に加えて,以下の心内腔への血液充満の障害を示す所見が得られれば確定的である:右房の拡張末期から収縮早期の虚脱,右室の拡張早期の虚脱(図),心室流入血流速波形E波の呼吸性変動の増大(吸気時に減少,呼気時に増加。左室流入血流の場合,15%以上の変動で有意)2)。
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