□結核は,わが国において現在も年間約2万人の新規登録があり,年間約2000人が死亡する重大な感染症である。
□新規発症の約20%程度が肺外結核で,近年増加傾向にある。腸結核(intestinal tuberculosis,enteric tuberculosis)は,胸膜炎,リンパ節,粟粒結核についで多く,最近でも年間約300人前後の登録がある。
□腸結核の約半数は肺に結核病巣を認めない原発性で,近年増加傾向にあることが報告されている。
□鑑別疾患として,クローン病,非特異性多発性小腸潰瘍症(chronic enteropathy associated with SLCO2A1:CEAS),NSAIDs起因性腸炎,腸管型ベーチェット病や単純性潰瘍などが挙げられる。
□臨床症状として特徴的なものはなく,主に発熱(微熱),腹痛,膨満感,下痢,全身倦怠感や体重減少などが認められる。ただし,自覚症状は一般的に乏しく,無症状で大腸癌検診などの内視鏡検査で診断される場合もめずらしくない。
□赤沈の亢進やCRPの上昇,および便潜血反応陽性などが確認される場合が多く,症例によっては貧血や低蛋白血症などを認める場合もある。
□腸結核の病変はリンパ装置が豊富な回盲部に好発することが知られ,大腸内視鏡検査や小腸造影検査による病変精査が有用である。
□腸病変の特徴は,活動期として輪状潰瘍(図1a)や帯状潰瘍(図1b),治癒期として瘢痕萎縮帯(図1c)や,回盲弁の開大や盲腸の萎縮により上行から回腸が直線化する回盲部変形(図2)がよく知られている。しかし,宿主の免疫状態により結核菌に対する反応が異なるため,実際の病変形態は黒丸分類(図3)に示されるとおり多彩である。
□腸結核の約半数は胸部に結核病変を認める。多くは陳旧性であるが,活動性病変を伴う場合もあり,感染対策の面からも胸部X線検査,ならびに必要に応じて胸部CT検査の実施が重要である。
□診断は,便培養や病変部生検組織の培養・PCR法検査による結核菌の証明,あるいは抗酸菌染色(Ziehl-Neelsen染色)も含めた生検病理診断により,乾酪性肉芽腫や結核菌が確認されれば確定する。
□ツベルクリン反応(Mantoux反応)検査,およびクォンティフェロン®TB検査やTスポット®.TB検査などの抗原特異的インターフェロンγ遊離検査(interferon-gamma release assay:IGRA)についても実施する。
□腸結核診断時の臨床的な問題は,病変組織や糞便から結核菌が証明される場合が非常に低率(30%程度以下)という事実である。大半の症例は,病変の肉眼形態や症状などから腸結核を疑うも,ツベルクリン反応やIGRA以外に陽性所見が認められず,抗結核薬による病変治癒を確認することで確定診断(治療的診断)が行われているのが現状である。
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