□外ヘルニアとは,壁側腹膜に包まれた腹壁の裂隙から臓器が腹腔外に脱出した状態を言う。鼠径,大腿,腹壁,閉鎖孔,会陰,坐骨,臍ヘルニアがあり,鼠径ヘルニアが最も多く80~90%を占める。明確な予防法はなく,嵌頓例では緊急手術の適応となる。ここでは,鼠径ヘルニア,大腿ヘルニア,腹壁ヘルニア,臍ヘルニアを扱う。
□鼠径ヘルニア(inguinal hernia)の原因は腹圧の上昇と筋膜の抵抗差とされてきたが,近年,後天的な全身性のコラーゲン組織代謝障害による筋膜・腱膜の脆弱化が一因で起こると考えられている1)。嵌頓時は緊急手術の適応となる。幼児期と50歳以上に発生のピークがあり,男女比は8:1である。高齢者では症状が弱いため注意が必要である(「§22-24 鼠径ヘルニア」参照)。
□大腿ヘルニア(femoral hernia)は嵌頓率が高く(年間約20%),全例手術適応となる2)。ヘルニア嚢が小さく見逃されやすいため,診断が重要である。高齢女性の経産婦に多く,男女比は1:5~8である。鼠径ヘルニアよりも疼痛を伴うことが多い。
□腹壁ヘルニア〔abdominal (wall) hernia〕は,開腹手術の合併症のひとつで,およそ10%に起こる3)。手術創の術後感染を生じた症例に多い。コラーゲンの低下,マトリックス分解酵素の増加など細胞外基質の代謝異常が創傷治癒の遅延を引き起こすために生じる4)。ヘルニア門が大きく嵌頓しにくいことから,待期的手術になる場合が多い。手術治療後も再発が多く,メッシュを用いても約30%に再発がみられる5)。
□臍ヘルニア(umbilical hernia)は5~10人に1人の割合で認めるが,1歳までに大部分が改善する(「§22-25 臍ヘルニア」参照)。
□還納性:立位や腹圧上昇時に膨隆を生じ,臥位にて消失する。早期では軽度の疼痛を生じることもあるが,通常は違和感程度か無症状である。
□嵌頓時:ヘルニア内容がヘルニア門に締めつけられ,血流障害を生じる。ヘルニアが硬くなり,自発痛・圧痛が出現する。進行する嘔気・嘔吐や腹痛を生じる。
□超音波,CTが有用である。
□還納性ヘルニアは,超音波は立位で,CTでは腹圧をかけてもらいながら検査をすることで強調される。
□嵌頓時には,超音波やCTではヘルニア嚢内の滲出物の存在や脱出腸管の壁肥厚を認める。
□大腿ヘルニアと鼠径ヘルニアの鑑別にはCTでの冠状断再構成像が有用である。大腿ヘルニアではヘルニア嚢が鼠径靱帯の尾側,大腿静脈の内側に位置する。
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