□コレステロール塞栓症は,アテローム(粥状)硬化症を大動脈に有している人に発症する疾患である。このような人に造影剤検査,あるいは心血管系の外科手術を行ったときに10~20%の頻度で発症するといわれる。
□発症は,アテローム硬化症病巣のプラークが弾け,それが100~200μmの中小動脈に詰まることにより全身の臓器に様々な障害をもたらす。最も多いのはblue-toeに代表される皮膚の病変である。ついで生命予後に最も関連するとされる腎臓の小葉間および弓状動脈に起こる腎アテローム塞栓症である。一般に急性腎障害あるいは緩徐に進行する腎障害として認められる。
□コレステロール塞栓症の診断は皮膚生検や腎生検によってなされるが,一般症状として発熱や初期の好酸球増多症は見逃してはいけない徴候である。
□治療法は決定的なものはなく,支持療法が大切とされている。
□病態生理として,以下に挙げる6つの項目が重要である。
①大きな動脈(大動脈,内頸動脈,総腸骨動脈)にプラークがある
②プラークが破裂する(自然に,外傷で,医療行為により)
③プラークの破片が塞栓となる(コレステロール結晶,血小板,フィブリン,石灰化)
④径が100~200μmの中小動脈に塞栓が詰まる
⑤コレステロール塞栓に対する異物反応
⑥塞栓の機械的閉塞と炎症による臓器障害
□動脈硬化性コレステロール塞栓症を起こしやすい条件:男性,60歳以上,高血圧,喫煙,糖尿病,動脈硬化性血管疾患(虚血性心疾患,脳血管障害,腹部動脈瘤,末梢血管疾患,虚血性腎症)
□各臨床症状を表に示す。
□特異的な所見はないが,貧血,白血球増多,血小板減少,炎症マーカー(CRP,赤沈)の上昇がみられる。
□好酸球増多症はしばしば急性期にみられ,通常慢性期においてはあまりない。
□低補体血症がみられるとの報告もあるが,必ずしも支持はされていない。
□血清アミラーゼの上昇がみられる場合には膵炎を,アルカリホスファターゼの上昇がある場合には胆嚢炎を,クレアチンキナーゼの上昇のある場合には筋肉炎などを疑う必要がある。
□コレステロール塞栓症の診断は,まずこの疾患を疑うことからスタートするとも言える。動脈硬化病変を有している60歳以上の男性が心血管系の手術や造影剤検査を受けた後に腎障害が出現,皮膚の症状〔blue-toeやリベド血管炎(livedo reticularis)〕が認められたときは,コレステロール塞栓症を強く疑う必要がある。
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