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FOCUS:解きほぐすDKD治療薬〈現場での考え方と使い方〉

No.5247 (2024年11月16日発行) P.11

山内真之 (虎の門病院腎センター内科医長)

登録日: 2024-11-15

最終更新日: 2024-11-13

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虎の門病院腎センター内科医長

山内真之

2004年京都府立医科大学医学部卒業。ハーバード大学公衆衛生大学院(公衆衛生学修士),ジョスリン糖尿病センター研究員,金沢大学腎臓内科学(医学博士)を経て,2020年より現職。糖尿病関連腎臓病の診療・学術活動を行っている。

私が伝えたいこと

◉RAS阻害薬の腎保護が報告されて以来,心腎保護を示すDKD治療薬はなかったが,近年になり治療選択肢が一気に増えた。2001年RAS阻害薬,2014年SGLT2阻害薬,2020年非ステロイド型選択的MR拮抗薬,2024年GLP-1受容体作動薬。

◉心腎保護が報告されているDKD治療薬は4つ(四本柱:Four Pillars)。RAS阻害薬,SGLT2阻害薬,非ステロイド型選択的MR拮抗薬,GLP-1受容体作動薬。

◉四本柱治療後の追加アプローチとして,血糖・血圧・脂質・体液管理の強化を行う。

◉DKD治療薬導入には,ガイドラインに基づく治療アルゴリズムを活用しつつ,個々の患者の状態に応じた柔軟なアプローチをする。

❶ DKD治療薬の変遷

2001年にRENAAL試験1やIDNT試験2によって,2型糖尿病患者におけるレニン・アンジオテンシン系(renin-angiotensin system:RAS)阻害薬の腎イベント抑制効果が証明された。しかし,それ以降,治療の進展がなく,糖尿病関連腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)の治療は,RAS阻害薬と血圧および血糖の管理に限定されていた。SGLT2(sodium glucose co-transporter 2)阻害薬が登場し,2015年にEMPA-REG OUTCOME試験3のサブ解析でエンパグリフロジンの心腎イベント抑制効果が実証されると,治療の進展が一気に加速した。2019年にはCREDENCE試験4において,カナグリフロジンがDKD患者の心腎イベントを抑制する効果が確認された。これにより,SGLT2阻害薬はDKD治療の重要な選択肢として位置づけられるようになった。また,非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体(mineralocorticoid receptor:MR)拮抗薬に関しては,2020年のFIDELIO-DKD試験5および2021年のFIGARO-DKD試験6が行われ,その統合解析FIDELITY7において,RAS阻害薬に加え,フィネレノンが心腎イベントの抑制に有効であることが示された。さらに,GLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬に関しては,2024年のFLOW試験8において,セマグルチドがDKD患者における心腎イベントのリスクを低減させることが報告された。このように,腎保護効果を持つ薬剤が次々と開発され,治療の選択肢が広がっている(1)。

現在,これらの新しい薬剤の登場により,DKDの治療戦略は複雑化している。多くの治療薬が存在する中で,それらをどのように組み合わせ,どの順番で使用するかが治療の成否をわける重要なポイントとなっている。国内外のガイドラインを参照すれば,現段階のアルゴリズムを把握することは可能であるが,実臨床の現場で,具体的にどの薬剤をどのタイミングで選択するかについては,まだ明確に記載されていない。

本稿では,エビデンスを重視しつつも,筆者の独断と偏見を交えた治療戦略を提案する。患者の個別の状態に応じて,適切な薬剤を選択し,最適な順序で治療を進めることで,DKDの進行を最大限に遅らせ,透析や心血管イベントのリスクをさらに低減することをめざしたい。

❷ DKD治療薬の実際の使用法

(1) Four Pillarsを根幹としたDKD治療

心不全治療で主要な4つの薬剤が「Fantastic Four」として知られるように,DKD治療でも「Four Pillars(四本柱)」(2)や「Fantastic Four for Kidneys」と呼ばれる4つの薬剤が提唱されている9。これらの薬剤は,異なる作用機序を持ちながら相互に補完し合い,腎機能保護と心血管リスク低減を実現する。早期に適切に導入することで,心腎イベントの抑制が期待される。

① RAS阻害薬

▶ エビデンス

2001年に実施されたRENAAL試験1とIDNT試験2により,アルブミン尿を伴う2型糖尿病患者において,ロサルタンとイルベサルタンが腎症の進行を遅らせることが証明された。これらの試験において,血清クレアチニン値が倍増するまでの期間,末期腎不全(end-stage kidney disease:ESKD)または全死亡までの期間が主要なエンドポイントとして設定されていた。結果として,RENAAL試験では16%,IDNT試験では19%のリスク低減が確認された。また,両試験とも,これらの薬剤が心不全による入院のリスクを低減させることも示された。

▶ 作用機序

・アンジオテンシンの生成阻害(ACE阻害薬):アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)を阻害することで,アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンへの変換を抑制し,血管収縮を防ぐ。また,ブラジキニンの分解を抑制することで血管拡張を促進し,血圧を低下させる。

・アンジオテンシン受容体遮断(ARB):アンジオテンシンがAT1受容体に結合するのをブロックし,血管収縮を防ぐことで血圧を低下させる。

・糸球体内圧の低下:アンジオテンシンⅡは腎臓の輸出細動脈を収縮させ,糸球体内圧を上昇させるが,RAS阻害薬はこれを抑制することで,糸球体内圧を低下させる。これにより,腎臓への過剰な負担(濾過)を軽減し,腎機能の保護に寄与する。

・心筋リモデリングの抑制:アンジオテンシンは心筋のリモデリングを促進するが,RAS阻害薬はこのプロセスを抑制することで,心不全の進行を遅らせ,心機能の低下を防ぐ。

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