□バーター症候群(Bartter syndrome:BS)は低カリウム血症,代謝性アルカローシスなどを特徴とする先天性尿細管機能障害に伴う症候群である。太いヘンレループから遠位尿細管に発現するチャネル,または輸送体の機能異常で発症する。
□臨床的には,新生児期に発症する重症型の新生児型BSと,乳幼児期に発見される比較的軽症型の古典型BSに分類される。
□近年の分子生物学の進歩に伴い,1型から4b型BS(OMIM番号 1型:601678,2型:241200,3型:607364,4型:602522,4b型:613090)に分類される(表1)。
□近年はBSおよび次項のギテルマン症候群(Gitelman syndrome:GS)を1つの疾患概念ととらえ,遺伝性塩類喪失性尿細管機能異常症(salt-losing tubulopathy:SLT)と総称する傾向にある(表2)。
□BSは,①低カリウム血症,②代謝性アルカローシス,③高レニン血症,④高アルドステロン症を示し,⑤利尿薬・緩下薬の常用・食思不振など二次的要因を伴わないことを診断基準とする,先天性尿細管機能障害によって生ずる症候群である。
□従来,胎児期より羊水過多を認め,早産・低出生体重を呈する新生児型と,症状が軽く乳幼児期以降に診断される古典型に分類されてきた。
□近年はその責任遺伝子により1~4b型BSに分類される。各病型特異的臨床像をGSも含め表1に示す。
□フロセミドの作用点であるNa─K─2Cl共輸送体NKCC2をコードする遺伝子SLC12A1の異常により発症する。
□新生児型を呈し,ほとんどの症例で出生前より羊水過多を指摘され,早産,低体重で出生する。その後,成長障害を伴いやすく,多飲多尿,発熱,嘔吐,脱水などの症状を認める。また,高カルシウム尿症,腎石灰化を認める。末期腎不全へ進行する症例もある。
□KチャネルであるROMKをコードする遺伝子KCNJ1の異常により発症する。
□羊水過多,早産,低出生体重を認め,1型同様に新生児型を呈する。しかし2型においては出生後しばらく高カリウム血症,代謝性アシドーシスを認め,偽性低アルドステロン症との鑑別が困難である場合がある。生後数カ月より血清カリウム値は低下しはじめるが,1型に比較しカリウム値低下は比較的穏やかで,正常下限で推移することもある。全例において高カルシウム尿症,腎の石灰化を認める。末期腎不全へ進行する症例もある。
□ClチャネルであるClC-Kbをコードする遺伝子CLCNKBの異常で発症する。
□3型は乳幼児期に多飲多尿や成長障害で発見され,腎石灰化を認めず,古典型を呈する。しかし,胎児期の羊水過多を認め,新生児型を呈することもある。また,従来GSの特徴とされてきた低カルシウム尿症や低マグネシウム血症を認める症例もあり,これらはGSとの鑑別診断が難しい。
□腎尿細管においてClC-KaおよびClC-Kbの共通のβサブユニットとして働いているbarttinの責任遺伝子BSNDの異常で発症する。
□臨床的には新生児型BSを呈し,感音性難聴を伴う。典型例においてはBSの中で最重症型を呈し,治療に抵抗性を示すことが多いとされる。
□さらに4b型は隣接するClC-Ka遺伝子CLCNKAおよびCLCNKBの両方の遺伝子に同時に変異を持つ(digenic mutation)ことで,4型BSとまったく同様の臨床像を示す。
□①低カリウム血症,②代謝性アルカローシス,③高レニン・高アルドステロン症により診断する。さらに,出生歴,腎石灰化の有無,血清マグネシウム値,尿中カルシウム値などを参考に病型診断を行う(表1)。
□利尿薬負荷試験:フロセミドおよびサイアザイドによる利尿薬負荷試験が診断の一助となる。1型BSはフロセミドの作用点であるNKCC2の障害であり,フロセミドに無反応であるがサイアザイドには良好な反応を示す。2型BSにおいては両方の薬剤に反応し,3型においてはBS,GSともにサイアザイドに無反応でフロセミドには良好な反応を示す。そのため本試験は2型BSの診断には適さず,また,3型BSとGSの鑑別診断には用いることができない。
□遺伝子診断:現在までのところ,確定診断を行う上で最も重要と考えられる。
□その他の遺伝性疾患との鑑別:腎低形成,ネフロン癆,Dent病,ミトコンドリア病,常染色体優性低カルシウム血症(autosomal dominant hypocalcemia:ADH)などの先天性腎尿細管疾患や,嚢胞性線維症,先天性クロール下痢症において同様の病態を呈することがあり,その場合BSとの鑑別は非常に困難であることがある。特に,カルシウム感知受容体(CaSR)遺伝子CASRの活性型変異により発症するADHに伴い,BSと同様の病態を発症することが報告され,5型BSと分類されることがある。しかし,CASRに変異を有してもほとんどの場合はBS様症状を呈さないことから,BSの1亜型には含まれないとする考えがある。
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