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NSAIDs貼付薬による腎障害の機序と脱水を起こしやすい時期の注意点や併用薬について

No.5244 (2024年10月26日発行) P.46

平田純生 (日本腎臓病薬物療法学会監事)

登録日: 2024-10-25

最終更新日: 2024-10-22

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ケトプロフェンの貼付薬の吸収率は高く,同時に貼付する枚数によっては,内服や注射薬に匹敵すると思えます。同じ腎障害でも非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)による間質性腎炎などはアレルギー性であり,腎前性の薬剤性腎障害(drug induced kidney injury:DKI)とは発症機序が違うと思います。また,貼付薬のケトプロフェン,ジクロフェナクは最高血中濃度(maximum drug concentration:Cmax)が比較的高くなく,胃腸障害は少ないようですが,腎機能への影響はあるように思えます。それらの機序と,高齢者,特に夏場など脱水を起こしやすい時期の注意点や併用薬に関して,“Triple Whammy”〔レニン・アンジオテンシン系阻害薬(RA系阻害薬),利尿薬,NSAIDsの3剤併用〕も含めてご教示下さい。
日本腎臓病薬物療法学会・平田純生先生にご解説をお願いします。(福岡県 K)


【回答】

【腎障害はきわめて稀で,免疫反応を介する腎障害が報告されているのみである】

ご質問の通り,RA系阻害薬,利尿薬,NSA IDsの併用はTriple Whammy処方と呼ばれ,高齢者では脱水から重篤な急性腎障害(acute kidney injury:AKI)のリスクになります。では,NSAIDsの貼付薬ではどうなのかについて考察してみましょう。日本語論文・学会発表は医学中央雑誌を検索しました。

モーラス®(ケトプロフェン)テープの経皮吸収率は69.7%と,経口薬以上ではないかと思わせる高さです。胃腸障害については,20mg×8枚/日による小腸出血が中止後に回復した報告があり1),2年にわたり遷延した胃潰瘍が,ケトプロフェン経皮製剤(40mg×4~6枚/日)の使用中止により2カ月後に治癒したという症例報告があります2)。モーラス®テープを何枚も貼付すると,内服ケトプロフェンカプセルの常用量である50mg連続投与時の血中濃度時間曲線下面積(area under the curve:AUC)よりも高くなり,全身作用として胃潰瘍の原因になります。学会発表でも,ロコア®テープによる出血性胃潰瘍が報告されています。一方,わが国でのロコア®テープによるAKIの報告は地方学会レベルの発表が1報,地域の医学雑誌に1報あるだけでした。

では,経皮吸収型NSAIDsであるロコア®テープの血中濃度の推移を見てみましょう。図1 3)4)はエスフルルビプロフェン換算した経口薬のY軸の血中濃度,X軸の時間のスケールを貼付薬に合わせて作成したものです。貼付薬のCmaxは低いのですが消失が遅く,経口薬ではCmaxが7倍以上高く,消失が速いのがわかります。AUCはロコア®テープ2枚貼付時とフルルビプロフェン経口薬の通常用量投与時とが同程度ですが,Cmaxが低いことが,貼付薬でAKIを起こしにくい理由かもしれません。

PubMed検索では「esflurbiprofen patch×AKI」「ketoprofen patch×AKI」ではまったくヒットしませんでしたが,「loxoprofen patch×AKI」で76歳の女性に経口ロルノキシカム投与によりネフローゼレベルの蛋白尿を伴う微小変化型の腎炎・間質性腎炎を発症したわが国の報告があります5)。ロルノキシカムの投与によってネフローゼを発症したのですが,中止により改善傾向だったところ,ロキソプロフェンパッチを貼付すると,アルブミン尿が再燃し腎機能が悪化したという報告です。ただし,ステロイドなどの治療なしで貼付中止のみによって回復しています5)

ロキソニン®パップ2枚を反復貼付したときの活性体AUCは内服の37.6%,Cmaxは約20ng/mLと,ロキソニン錠活性体のCmax 850ng/mLのわずか2.3%しかありませんが,アレルギー性の間質性腎炎,免疫系を介した蛋白尿などの用量依存的ではないAKIは無視できないと思われます。

NSAIDsによるAKIの多くは,猛暑の夏季に飲水不足の高齢者で多発します。輸入細動脈収縮による腎前性AKI以外にも,尿細管に酸素・栄養素を供給する輸出細動脈の虚血による尿細管壊死(脱水状態が持続すると重篤化する)をきたすという機序ですから,高齢者に関しては吸収率の低い局所作用型のNSAIDs貼付薬は,経口製剤に比べると中毒性腎障害のリスクは低くなります。そういう意味では,同じ成分であってもテープ剤よりもパップ剤のほうが吸収率は低く(モーラス®テープに関しては各々69.8%,13.3%),全身性の副作用が少なく局所作用のみを期待できると思われます。

ただし稀ではありますが,NSAIDsによるAKIでも①免疫反応が介在する糸球体障害,②アレルギー性の尿細管間質性腎炎の発症は濃度依存的ではないため,NSAIDsを経口から貼付薬や外用薬に変更してもAKIを起こすことがありえます。

【文献】

1)Hirose S, et al:Scand J Gastroenterol. 2018; 53(1):120-3.

2)木本正英, 他:日プライマリケア連会誌. 2019;42(3): 158-61.

3)フロベン®錠添付文書.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/200022_1149011D1032_1_12

4)ロコア®テープ添付文書.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/400059_2649896S1022_1_10

5)Kikuchi H, et al:Intern Med. 2014;53(11): 1131-5.

【回答者】

平田純生 日本腎臓病薬物療法学会監事

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