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軽度認知障害(MCI)

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-06-16
玉岡 晃 (筑波大学医学医療系神経内科学教授・附属病院副病院長)
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  • ■疾患メモ

    特徴:軽度認知障害(mild cognitive impair-ment:MCI)1)とはアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)を含む認知症の前駆状態とも言える病態であり,認知症とは診断されないが,正常の生理的な老化過程で予想されるよりも認知機能が低下している状態にあたる。

    病態:MCIは変性性認知症,精神疾患,虚血,外傷,代謝疾患など様々な病態と関連している。また,そのままの状態で安定するものや回復するものもみられる2)

    疫学:欧米では,高齢者におけるMCIの有病率は3~19%,発症率は8~58人/1000人/年と報告されており,わが国では,在宅高齢者の31.1%がMCIであったとの報告がある。また,2年間に認知症を発症するリスクは11~33%とされている3)~5)

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    〈診断基準〉

    Petersenら1)6)によって提唱されたMCIは,①自覚的な記憶の衰えの訴え,②正常な日常生活動能力,③正常な全般的認知機能,④年齢に比して低下した記憶力(記憶検査で平均値の1.5SD以下),⑤認知症ではないこと,⑥CDRスコアが0.5,の要素から構成されていた。

    その後,より一般的なMCIの診断基準が提唱され7),それによると,①正常とは言えないが,認知症の診断基準は満たさない,②基本的日常生活動作は保たれているが,複雑な手段的日常生活動作に最低限の障害がみられる,③自覚的・他覚的な認知機能低下に関する訴えがあり,神経心理検査で認知機能の経時的な低下が明らかにされること,が診断基準として推奨されている。

    そして,記憶障害の有無と他の高次脳機能障害の有無によって4種の亜型に分類された。すなわち,記憶障害のみであればamnestic MCI,single domain,記憶障害+他の認知領域の障害であればamnestic MCI,multiple domain,記憶障害がなく他の1領域の認知機能障害があればnon-amnestic MCI,single domain,記憶障害がなく他の複数領域の認知機能障害(言語,遂行,視空間認知機能などの障害)があればnon-amnestic MCI,multiple domainとなる(8)

    08_11_軽度認知障害(MCI)

    【検査所見】

    〈画像検査〉

    形態画像では,MRIにvoxel-based morphometry(VBM)を用いた検討により,MCIの段階で前部帯状回,側頭葉,頭頂葉,島皮質の萎縮が強いものはADに移行するものが多い,と報告された9)

    また,海馬よりも嗅内野皮質の萎縮が目立つMCIはADへの早期の移行が危惧され,AD移行例は非移行例よりも海馬の萎縮の進行が早いとされている。

    PETやSPECTを用いた機能画像でも,MCIの予後,すなわちADへの移行やその早さに関して検討されている。①FDG-PETでは,後部帯状回と頭頂側頭連合野などの糖代謝低下によりADへの移行を予測できると報告されている10)11)。②脳血流SPECTではAD移行例は非移行例に比べ側頭・頭頂葉および楔前部12)あるいは後部帯状回および前部帯状尾側部13)で血流が低下していると報告されている。

    11C-PIBなどを用いたアミロイドイメージングでは,ADでは前頭前野や楔前部などの大脳皮質に強い集積が認められる14)。MCIの大脳皮質では11C-PIB集積例と非集積例がみられ,前者はADに移行するものと予想される。また,前者は脳脊髄液Aβ42が低値と報告されており15)11C-PIB所見と脳脊髄液Aβ42の組み合わせにより,ADに移行するMCIの診断精度がより高まるものと考えられる。

    〈生物学的マーカー検査〉

    Andreasenら16)は6~27カ月の追跡調査でADに移行した16例のMCI群の14例(88%)が15例の年齢を一致させた健常対照群に比して,認知症の発現以前に脳脊髄液タウの増加やAβ42の低下を呈したことを報告した。

    また,Buergerら17)は77例のMCI群の追跡調査でADに移行したMCIの82%で脳脊髄液Thr231リン酸化タウが有意に高値であったことを明らかにし,これが認知機能の低下と相関することも示した。

    Riemenschneiderら18)も28例のMCI群を18カ月経過観察し,ADに移行するMCIや認知機能障害が進行するMCIは進行しないものに比べて有意な脳脊髄液タウの高値やAβ42の低値がみられたことを発表した。

    そのほかにも,MCIや初期のADにおける脳脊髄液タウ,リン酸化タウ,Aβ42の同様な変化が多くの論文によって明らかにされている19)。これらのバイオマーカーの知見を取り入れて,以下のような,ADによるMCIの診断基準(表12)が提唱された20)

    08_11_軽度認知障害(MCI)

    臨床的にMCIと診断された場合,①バイオマーカーが未検査であるか,結果が互いに相反する場合や陰性とも陽性とも決定できない場合,「臨床的にMCIである」とする。②Aβのバイオマーカーと神経変性のバイオマーカーの一方が陽性で他方が未検査の場合,「ADによるMCIの可能性が中等度である」とする。③両者が陽性の場合,「ADによるMCIの可能性が高い」とし,両者が陰性の場合,「ADによるMCIの可能性が低い」とする。

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