ミトコンドリア病は,ミトコンドリア機能が障害され,臨床症状が出現する状態の総称である1)。ミトコンドリアはほぼすべての細胞に存在し,代謝に関わるので,エネルギー消費量の多い臓器である脳や筋肉に症状が出やすい。そのためミトコンドリア脳筋症と呼ばれてきた。中枢神経以外にも様々な臓器に症状を呈するため,典型例は診断しやすいが中枢症状がない例などは診断に苦慮することがある。成人では脳卒中様症状を伴うミトコンドリア脳筋症(mitochondrial encephalomyopathy with lactic acidosis and stroke-like episodes:MELAS),赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群(myoclonic epilepsy with ragged-red fibers:MERRF),慢性進行性外眼麻痺症候群(chronic progressive external ophthalmoplegia:CPEO)および網膜色素変性と心伝導ブロックを伴うKSS(Kearns-Sayre syndrome)の三大病型が全体の60%を占める。ミトコンドリアDNAあるいは核DNAの変異に起因するとされる。
中枢神経,骨格筋,心筋,肝,腎,内分泌異常,難聴,眼症状などの多彩な臨床症状,血中および髄液中の乳酸値上昇,筋病理所見(ragged-red fibers, strongly SDH-reactive blood vessel , COX deficiency),生化学検査(ミトコンドリア関連酵素活性),遺伝子検査などを総合して診断する。
現在のところ根本的な治療法はない。ミトコンドリア内の代謝経路にて各種のビタミンが補酵素として働いており,対症療法としてビタミン補充療法が行われることが多い。電子伝達系の供与体としてコエンザイムQ10も用いることが多い。MELAS患者の脳卒中様発作再発抑制にタウリンが保険適用となったため,MELAS患者には使用する。また2022年にはL-アルギニン塩酸塩のミトコンドリア病への適応外使用が認められたため,必要例には使用も可能となった。
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