□自己免疫性脳炎は自己免疫機序によって生じる脳炎の総称である。側頭葉内側に病変の主座がある場合には辺縁系脳炎と呼ばれている。
□辺縁系脳炎は1960年代に提唱された概念であり,悪性腫瘍(特に肺癌)の合併頻度が高いことから,傍腫瘍性神経症候群の1つと考えられてきた。
□2000年頃まで,Hu,Ma2,Yo,CV2/CRMP5,GAD(glutamic acid decarboxylase),amphiphysinなどに対する抗体が次々と報告されてきたが,これらは細胞内抗原に対する抗体であり,一部を除きpathogenicな抗体とは考えられていない。これらの抗神経抗体を有する傍腫瘍性神経症候群は,細胞傷害性T細胞が脳実質に浸潤し,神経細胞が脱落するため,治療反応性は乏しい。
□しかし,2001年以降,治療に反応する可逆性辺縁系脳炎が報告されるようになった。2007年の抗NMDA(N-methyl-D-aspartic acid)受容体(NMDAR)抗体1)の発見を皮切りに,AMPA(amino methylphosphonic acid)受容体(AMPAR),GABAB(γ-aminobutyric acid B)受容体(GABABR),Lgi1,Caspr2,DPPX(dipeptidyl-peptidase-like-protein-6),GABAA受容体(GABAAR),代謝型グルタミン酸受容体5(mGluR5),あるいはグリシン受容体(GlyR)など,細胞表面に発現している受容体や細胞外に存在するシナプス蛋白に対する新規の抗体が次々と同定されてきている2)。
□これらの新規の抗体はpathogenicな抗体と考えられている。抗NMDAR抗体,抗AMPAR抗体あるいは抗GlyR抗体では,受容体の内在化が促進することにより,受容体の発現数が減少することが示されている3)。
□新規の抗体を有する脳炎の中では,抗NMDAR抗体を有する抗NMDAR脳炎が最も多く,抗Lgi1抗体陽性の脳炎がついで多い(表)2)。CNSループス,神経ベーチェット病,橋本脳症,急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM),多発性硬化症は,一般的に自己免疫性脳炎には含まれていない。
□頭痛,発熱,精神症状,記銘力障害,痙攣,意識障害が急性あるいは亜急性に出現する。
□抗体ごとに臨床病型は異なるが,辺縁系に病巣を認める辺縁系脳炎と,画像上明らかな病巣を示さないびまん性脳炎にわけて考えると理解しやすい。抗NMDAR脳炎は後者に入る。
□抗NMDAR脳炎は,若年性女性に好発する難治性脳炎であり,女性の約半数に卵巣奇形腫を合併している4)。
□典型例では,感冒様症状に引き続き,著明な精神症状が出現し,しばしば痙攣発作を契機に無反応状態となる。その後,中枢性低換気,自律神経症状および多彩な不随意運動が数カ月~半年以上持続する1)3)4)。
□抗Hu抗体,抗Ma2抗体,抗GAD抗体,抗Lgi1抗体,抗AMPAR抗体,あるいは抗GABABR抗体は,辺縁系脳炎を呈することが多い。
□抗Lgi1抗体陽性例では一側の顔面筋と同側の上肢が数秒間硬直するfaciobrachial dystonic seizure(FBDS)が,辺縁系脳炎に先行して出現する。
□一方,抗CV2/CRMP5抗体,抗Caspr2抗体,抗DPPX抗体,抗GABAAR抗体,あるいは抗mGluR5抗体では,辺縁系脳炎を呈することは稀である。
□古典的な傍腫瘍性辺縁系脳炎では悪性腫瘍の検索が必須であるが,新規の抗体陽性例では,腫瘍合併率や随伴腫瘍も抗体ごとに異なっている(表)2)。
□臨床症候から抗NMDAR脳炎を疑った場合には,卵巣奇形腫と縦隔奇形腫を検索する。
□抗Lgi1抗体陽性例では,しばしば低Na血症を認める。
□髄液検査では非特異的な炎症性変化を認めるが,抗NMDAR脳炎や抗Lgi1抗体陽性例では髄液細胞増加は乏しい。
□辺縁系脳炎では両側の側頭葉内側にT2/FLAIR高信号域を認めるが,抗NMDAR脳炎では脳実質に高信号を呈する頻度は低く,臨床症状が重篤であるにもかかわらず画像所見が乏しいのが特徴である3)。脳波ではびまん性徐波や発作波を認めるが,抗NMDAR脳炎ではextreme delta blushと呼ばれる徐波と速波が重層する所見が特徴的である。
□確定診断には抗体の証明が必須である。抗体は血清と髄液両者で測定することが望ましい。特に抗体が髄内産生されているとされる抗NMDAR抗体,抗AMPAR抗体および抗GABABR抗体は,髄液中の抗体をcell-based assayで測定する必要がある。しかし,抗体が検出されない原因不明の自己免疫性脳炎も少なくない。
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